artscapeレビュー
2016年03月01日号のレビュー/プレビュー
竹岡雄二 台座から空間へ
会期:2016/01/16~2016/03/21
国立国際美術館[大阪府]
京都に生まれて育ちドイツ留学を経て、デュッセルドルフとブレーメンを拠点に活躍する現代美術家、竹岡雄二の初回顧展。1980年代以降30年にわたる活動のなかから選定した20点の作品が展示されている。一見したところは60年代に登場したミニマル・アートだが、竹岡の作品は「台座彫刻」。つまり彫刻を置く台座自体がその作品の不在を包み込んで提示されるという、非常に思弁的な「作品」なのである。本来なら台座の上に置かれるべき彫刻がないから、見る人はその不在の空間をより強く意識することになる。作品の形式、色彩・材料・形態・大きさはさまざま、即物的な「もの」が存在感をもって提示される。作家は、私たちが見慣れた美術展示の場のあり方を問い、台座自体を彫刻作品として展示しているのだ。《クリーン・ルーム・ジャパン》と題された作品は、黒く塗装されたアルミニウムで縁取られた、210×286×286センチの巨大なガラスのケース。この作品の前に佇む人はなにを思うだろうか。[竹内有子]
2016/01/19(金)(SYNK)
Behind The Scene スタジオ・ジャーナル・ノック/西山勲写真展
会期:2016/01/20~2016/01/31
iTohen[大阪府]
福岡県でグラフィックデザイナーを生業としていた西山勲。ある日彼は仕事を清算し、2年間の旅に出た。そして世界各地で出会ったアーティストを取材し、原稿・撮影・編集・デザインを一人でこなして、『Studio Journal Knock』なる雑誌を作り上げてしまう。本展は、同誌に掲載した写真約50点をピックアップした個展である。見知らぬ土地で初めて出会う人間に取材を行なうのは緊張感を伴う行為だが、作品から滲み出るのは、くつろぎ、親密感、好奇心といったポジティブな感情ばかり。このリラックスした空気感こそが本展のコアであろう。肝心の雑誌も展示・販売されていたが、とても個人制作とは思えない上質さだった。地方で、個人で、ここまでできる時代なのか。関西でフリーライターをしている筆者にとっても、励みになる展覧会だった。
2016/01/21(木)(小吹隆文)
佐々木真士展──大河のうた──
会期:2016/01/26~2016/01/31
ギャラリー恵風[京都府]
大学卒業と同時にインドを旅し、同地の厳しい自然環境とそこで暮らす人々の悲喜こもごもに魅了された佐々木真士。以来、彼は約2年に一度のペースでインドに出かけ、同地を題材にした作品を描き続けている。現地では徹底的に写生にこだわり、幾日も同じ場所に座って描き続けるという。その姿に興味を抱き、声をかけ食事に誘う現地人もいるのだとか。写真を元に制作する作家が多くなった昨今、彼のスタイルはオールドファッションとも言える。実際、佐々木の作風は線描を基本とする正攻法の日本画だ。しかし、五感から得た感興を画面に描ききっているため、作品にはエキゾチシズムを超えた説得力がみなぎっている。これまでの作風は俯瞰の視点と色味を抑えた壮麗さが特徴だったが、新作では人物や群衆を近距離の視点で描き、鮮烈な色彩美を前面に押し出すようになった。この変化が今後どのように昇華されていくのか注目したい。
2016/01/26(火)(小吹隆文)
FUKUSHIMA SPEAKS アートで伝え考える 福島の今、これからの未来
会期:2016/01/22~2016/01/31
京都造形芸術大学 ギャルリ・オーブ[京都府]
東日本大震災と福島第一原発事故の後、文化芸術の力による福島の復興を目指し福島県で始められた「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」。本展は、その活動から生まれた美術作品を紹介し、復興に向かう現地の姿を伝えると同時に、問題意識の共有を図ろうとするものだ。出展作家は、美術家の岡部昌生と安田佐智種、華道家の片桐功敦、写真家の赤坂友昭と本郷毅史の5名。彼らがそれぞれの視点と手法で捉えた福島は、圧倒的なスケール、真摯な眼差し、鎮魂の情をもってこちらに迫ってきた。出展作家や福島県の美術館・博物館学芸員が参加したトークイベントも多数開催され、主催者の意図はひとまず達成されたと思う。1995年の阪神・淡路大震災の折、関西在住の筆者は東京発の報道に隔靴掻痒の感を幾度も覚えた。そして今、自分は逆の立場にいる。当時の記憶と現在の被災地への思いを風化させないために、このような機会を設けてくれた主催者に感謝したい。
2016/01/26(火)(小吹隆文)
FREE SOUND 解き放たれるオト展
会期:2016/01/28~2016/04/10
グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル The Lab. みんなで世界一研究所2F[大阪府]
大阪のナレッジキャピタルとオーストリア・リンツのメディア・アート機関アルスエレクトロニカのコラボ企画第5弾。ベルリンを拠点に活動するサウンド・アートのパイオニア、クリスティーナ・キュビッシュの《Cloud》と、日本の若手、和田永の《時折織成──落下する記録──》の2作品を紹介している。キュビッシュの作品は約800メートルのケーブルを雲状に絡めた外見をしており、複数の場所で記録した電磁場の音を、特殊なヘッドフォンを装着して聞くことができる。和田の作品はオープンリールのテープデッキからゆっくりと落下するテープが重低音と共に美しい模様を描き、一定時間ごとにテープが逆回転を始めて音楽を奏でるというものだ。わずか2作品の展示だが、関西ではメディア・アートと接する機会が少ないこともあり、とても刺激的だった。ナレッジキャピタルでは科学と芸術をまたぐ企画を積極的に行なっており、その効果は近い将来にじわじわと現れるだろう。
2016/01/28(木)(小吹隆文)