artscapeレビュー
タイルとホコラとツーリズム season5 《 山へ、川へ。》
2018年10月01日号
会期:2018/08/17~2018/09/02
Gallery PARC[京都府]
毎夏、お盆の時期に京都で開催される展覧会として定着しつつある、「タイルとホコラとツーリズム」。観光ペナントの収集・研究や、マンガやデザインも手がける谷本研と、〈民俗と建築にまつわる工芸〉という視点からタイルや陶磁器の理論と制作を行なう中村裕太。京都の街中に点在する「タイル貼りのホコラ」の生態系についてのリサーチを出発点に、2人の美術家がゆるやかなユニットとして取り組んできたプロジェクトが「タイルとホコラとツーリズム」である。路上観察、民俗学、タイルという西洋の建築資材の定着、地域信仰、ツーリズムと消費など、アートの周辺領域を横断的に考察してきた。本展は、5周年を迎えての総括的な面に加え、「石」に注目した2人がそれぞれ「山」と「川」へ出向いたフィールドワークの成果が発表された。
会場のGallery PARCは展示室がビルの2~4階にまたがっており、入り口の1階から屋上までビル全体を「山頂までの道中」に見立てた展示構成だ。展示ポイント毎に「三合目」「五合目」「七合目」と書かれた石が置いてあり、観客は自らの身体を駆使して巡礼のように各ポイントを回った後、「山頂」=屋上で「願掛け石」を奉納することができる(願掛け用の「石」は、「売店」となったギャラリーのカウンターで販売されており、会期後は、実際に願掛け石の風習が残る京都の山へ、作家が運んで奉納する)。また谷本は、自分より体格のよい中村を願掛け石に見立てて背負い、ビルの屋上まで運ぶパフォーマンスを実行。一方、中村は、木曽川と飛騨川の合流付近の遺跡で発掘された石器に注目。制作過程や石質の差を推測し、自作して再現を試みた。
展示全体を見て浮かび上がってくるのは、リサーチ型だが身体的な要素を入れ込む点と、近世/現代を問わず、「お土産もの」つまりツーリズムと結びついた消費のさまざまな形態のパロディである点だ。例えば、「三合目」で出迎える、谷本の《タイルとホコラ参詣曼荼羅》。これまでリサーチ対象となった「ホコラ」を、寺社の俯瞰図である「参詣曼荼羅」の様式で描いたものだが、ドラクエのようなRPGゲームの地図も想起させ、宗教的な巡礼がアイテムゲット(例えばお札など)の所有欲と結びついていることを示唆する。「ホコラ講寄贈」と明記された幕がかかる「売店」では、この「参詣曼荼羅」を持ち運びサイズにプリントした商品に加え、「ホコラ三十三所」の案内冊子、江戸時代の土産物「大津絵」を模した絵画、さらにはペナントや缶バッジなど、新旧さまざまな「お土産」が並べられる。
フィクションとしての「ホコラ詣で」をパロディの反復の強度によって「実在するツーリズム」へと反転させること。ギャラリー空間全体をツーリズムの場として「ジャック」し、「山頂への巡礼」を観客の身体にも擬似体験させること。アートが(例えば地域おこしのツールとして)消費されるのではなく、新たな視点で土地を眼差すツーリズムを生み出すこと。彼らの旅がこれからどう続いていくのか、楽しみだ。
2018/08/23(木)(高嶋慈)