artscapeレビュー
川田喜久治「百幻影」
2018年10月01日号
会期:2018/08/31~2018/10/11
キヤノンギャラリーS[東京都]
あらためて、川田喜久治という稀代の写真家の底力を見せつけられた。東京・品川のキヤノンギャラリーSの空間を黒い箱に見立て、そこに100点のフレーム入り大判プリント(すべて川田自身によるプリントワーク)が並べている。中心になっているのは1970年代の「ロス・カプリチョス」と80年代に開始された「ラスト・コスモロジー」の2シリーズだが、それ以前や2010年代以降の作品も含まれていた。
特筆すべきは、かなり長いスパンで撮影・制作されているにもかかわらず、作品のテンションにまったく弛みがなく、しかも一貫した指向性が貫かれていることである。会場に掲げられていたコメントには、「写真をストレートのままでなく、角度を変えながら、現れてくる世界も探ってみたい」、あるいは「夢のなかの光景が、現実を逆襲するようなトーンを思い浮かべたりした」と記されていた。このような反写実的、反現実的な作風は日本においてはむしろ稀である。その制作姿勢を、ごく初期を除いて、1960年代以来ずっと保ち続けてきたこと自体が、驚嘆すべきことといえる。
シリーズや年代ごとの括りをはずして、作品を一旦シャッフルし、イメージ相互の関係性を注意深く吟味しながら再構成した展示のレイアウトも、とてもうまくいっていた。それに加えて、田中義久がデザインしたという特注の展覧会ポスター10枚が、写真作品の合間に効果的に配置されている。1933年生まれの川田は今年85歳になるが、若々しい創作意欲にまったく衰えを感じない。これもまた驚くべきことだ。
2018/09/05(飯沢耕太郎)