artscapeレビュー

寺門豪「PARADISE」

2018年10月01日号

会期:2018/08/29~2018/09/11

銀座ニコンサロン[東京都]

寺門豪は1976年、栃木県生まれ。2008~09年に東京・四谷のギャラリーニエプスの運営に参加している。今回、銀座と大阪のニコンサロンで開催された「PARADISE」は、気持よく目に飛び込んでくる写真群で構成された、クオリティの高い展覧会だった。会場には「人間が消えた世界を想像しながら、無人の風景を撮影」した縦位置のカラー写真、約60点が並ぶ。すべて2014~18年に首都圏で撮影されたもので、そのなかには旧国立競技場の跡地、建設中の豊洲市場、いじめによる殺人事件の現場となった河原など、「社会的な出来事の舞台になった場所」も含まれている。感情移入を排したそっけない撮り方だが、ここ数年間に東京とその周辺を覆い尽くそうとしている、鬱陶しい空気感がじわじわと伝わってくるように感じた。

ただ、2枚の写真を1枚の印画紙にプリントして並置する会場構成が、うまくいっているかどうかは微妙だ。寺門の意図としては「個々の風景に没入するのではなく、それぞれを相対化」するということのようだが、むしろ2枚の写真の相互関係が気になってしまう。時折、1枚の写真だけをフレームに入れて展示しているのも、やや不徹底な印象を与える。また、「①人間の不在、②過去の消失、③場所の変質」を経て、そこから出現してくる世界を「PARADISE(楽園)」と呼びたいというコメントもあったが、ではなぜそれが「PARADISE」なのかという理由も明確ではない。コンセプトを形にしていくプロセスを、もう少し丁寧に追求していくと、より見応えのある作品に成長していきそうだ。

2018/09/04(飯沢耕太郎)

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