artscapeレビュー

世界を変えた書物展

2018年10月01日号

会期:2018/09/08~2018/09/24

上野の森美術館[東京都]

小雨の降る平日の昼前だというのに、館内はけっこう混んでいる。しかもおばちゃんではなく、珍しく学生が多い。理系の学生か。金沢工業大学の「工学の曙文庫」から出展される理工系の西洋稀覯本コレクション。古本好き、洋書マニア、本棚フェチ、文字オタク、科学ファン、図書館フリークには垂涎の展示だ。最初の部屋は両側が西洋の古書の詰まった本棚(前面がアールヌーヴォーのように波打ってる!)に占められ、撮影自由なのでバシバシ撮っちゃいましたね。次の部屋から時代を追って1冊ずつ本を開いたかたちで紹介している。15世紀末のフランチェスコ・コロンナ『ポリュフィルス狂恋夢』(これは理系か?)、16世紀のコペルニクス『天球の回転について』、17世紀のニュートン『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』、19世紀のダーウィン『種の起原』など。やはり古い書物ほど大型でずっしり重量感があって、著者や読者の情念がたっぷり染みついた「オブジェ」と化している。時代が下るにつれ徐々にコンパクトになり、18-19世紀ごろにはアウラは薄まり、20世紀には薄っぺらい印刷物に成り下がってしまう。

考えてみれば書物だけでなく、絵画も壁から板、布へ、時計も日時計から置き時計、掛け時計、腕時計、スマホへ、テレビも立方体から徐々に薄型の液晶へ、すべてコンパクトに、ポータブルに、薄くて四角い板状の物体に収斂していく。板に線を引いて色を塗れば絵画に、紙に字を書いて綴じれば本に、画面に電気を通して画像を映し出せばテレビやパソコン、スマホになる。人間にとって四角い板はもっとも手にも目にもなじみやすく、だから知識や情報を伝えるメディアもすべからくこの形態をとるのだ。関係ないけど「モノリス」とはこのことだね。しかしこんな大量に貸し出して曙文庫は空っぽにならないの? どうせ学生は読まないから心配ないって?

2018/09/21(村田真)

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