artscapeレビュー

多和田有希「悪魔祓い、系統樹、神経の森」

2018年10月01日号

会期:2018/08/25~2018/09/29

G/P GALLERY[東京都]

多和田有希は1978年、静岡県浜松市生まれ、東北大学で農学を学んだ後、美術に転じ、ロンドン芸術大学キャンバウェルカレッジを経て東京藝術大学大学院博士課程を修了した。インクジェットプリントの写真画像の一部をヤスリや電動消しゴムで消去したり、ハンダごてで焼き抜いたりして制作されるインスタレーション的な作品は、グループ展などでこれまでも何度か目にしたことがあるのだが、今回G/P GALLERYで開催された個展を見て、多くの可能性を秘めた作家だと感じた。

出品作品は、「打ち寄せる波のイメージを母と共に焼いた」という「I am in You」(2015~)、そして新作の《ID(transition)》と「Family Ritual」である。画面に無数の小穴が開いていたり、紐状の神経繊維が絡み合っていたりするように見える作品は、その物質性の強調に目を奪われがちだが、そこには現実世界をこのようにしか把握できないという強固な確信と、このように把握したいという切実な願望が宿っている。多和田は写真作品制作を通して、まさに自らに「悪魔祓い」の儀式を施すことを希求し続けており、最終的にはそれが自己と他者との関係の修復(セラピー)に繋がってくるということではないだろうか。これまでは、個人的な体験を発想の核に据えることが多かったが、新作では公共図書館のアーカイブスなどから引用したイメージも取り込むようになってきている。今回は、会場のスペースの関係で小品が中心だったが、より大きなサイズの作品を含むまとまった展示をぜひ見てみたい。

20180831 / Yuki Tawada / Photography by Fuyumi Murata

2018/09/05(飯沢耕太郎)

2018年10月01日号の
artscapeレビュー