artscapeレビュー
1968年 激動の時代の芸術
2018年10月01日号
会期:2018/09/19~2018/11/11
千葉市美術館[千葉県]
「1920年代」とか「1980年代」とかひとつのディケードをテーマにした展覧会はたまにあるが、それに比べて、ある特定の年に焦点を絞った展覧会は少ない。記憶にあるのは、目黒区美術館の「1953年ライトアップ」、東京都現代美術館の「よみがえる1964年」くらいか(両展とも1996年の開催)。展覧会というのは個展にしろテーマ展にしろ通史的に構成されるものが多いので、特定の年に絞ると時間的な推移が示せなくなるからだろう。一方で、地域性やジャンル間などの横との関係性が明確になり、時代性や社会背景を浮き彫りにしやすいメリットがある。ちょうど半世紀前の1968年が選ばれたのは、その年の美術を紹介したいというより、当時の美術を通して1968年という時代と社会を浮かび上がらせることが目的だったのではないかと思えてくる。
1968年というと、ノンポリのぼくでもパリの五月革命が思い浮かぶように、世界的な反体制運動の季節。日本でも全共闘などの学生運動やベ平連をはじめとする反戦運動などが盛り上がっていた。展覧会はそうした闘争を記録した東松照明や北井一夫らによる写真に始まり、橋本治による駒場祭のポスター、赤瀬川原平の『櫻画報』や「千円札裁判」の記録・資料、羽永光利による新宿風景やハプニングの写真、美共闘のガリ版刷りアジビラ、70年の万博および反万博の写真や資料、横尾忠則、粟津清らによる天井桟敷や状況劇場、暗黒舞踏の公演ポスター、つげ義春や林静一らの漫画、『プロヴォーク』の中平卓馬や森山大道によるブレ・ボケ写真、もの派や概念芸術の作品・資料まで、ざっと450点ほど。時代的には1968年を中心に、赤瀬川原平のいわゆる「千円札裁判」が始まる66年から、万博の開かれる70年まで幅をとっている。
よく半世紀も前のものをこれだけ集めたもんだと感心するが、お気づきのように記録写真や資料、ポスターや漫画などアーカイブやサブカルチャーものが大半を占め、いわゆる「美術作品」らしきものは少ない。もちろん写真も漫画もポスターも美術作品といえばいえるが、いずれも複製芸術であり、1点ものの絵画・彫刻となると、鶴岡政男の《ライフルマン》、山下菊二の《海を渡る捕虜服》、高松次郎ら「トリックス・アンド・ヴィジョン」の出品作、山口勝弘らによる環境芸術やインターメディア作品、李禹煥らのもの派の作品(再制作)など数えるほどしかない。まあ半世紀も前のことだし、当時はインスタレーションやパフォーマンスの先駆的作品が多く、作品自体がその場で消えて残っていないし、なにより「絵画」「彫刻」といった形式が風前の灯だったから仕方がないといえば仕方がない。その代わり勢いがあったのが、時代や社会を反映しやすい写真やポスターや漫画などのサブカルチャーだったというわけだ。見終わったときは美術展とは違い、資料の山にひととおり目を通したという快い疲労感が残った。
2018/09/18(村田真)