artscapeレビュー
有元伸也「ariphoto vol.32」
2018年10月01日号
会期:2018/09/04~2018/09/16
今年(2018)の夏は異様なほどの暑さで記憶に残っていくだろう。有元伸也が、新宿界隈を6×6判で撮影したスナップショットを、「ariphoto」と題して展示するのも32回目になるのだが、今回はとりわけそこに写っている人物たちの熱量が半端でないように感じる。今回展示された写真は、今年の6~8月に撮影されたとのことだが、異様な風体、只ならぬ振る舞いの人物たちがひしめいているのは、あの狂ったような暑さとどこか関係があるように思えてならない。別な見方をすれば、有元がそれだけ皮膚感覚を鋭敏に研ぎ澄ませて、シャッターを切り続けているということでもある。
有元は仲間たちとともに運営する新宿・四谷のTOTEM POLE PHOTO GALLERYで「ariphoto」の写真群を発表しながら、2010年から年一冊のペースでA3判変型の大判写真集『ariphoto selection』シリーズを刊行し続けてきた。今回の展示にあわせて、そのvol.9とvol.10が出たのだが、残念なことにこの写真集シリーズはこれで打ち止めということになりそうだ。最大の理由は、郵送料が当初の4倍近くにアップしていることだという。判型が大きく、かさばる写真集をどう配本していくかは、以前から大きな問題だったのだが、状況はかなり厳しくなっているようだ。
『ariphoto selection vol.9』は、2001年に大阪から上京してきた頃に集中して撮影した、カラー写真のスナップショットをまとめたもので、どこか不安げな初々しい眼差しが印象的だ。『ariphoto selection vol.10』は今回展示されたハードコアな新宿のスナップ写真で構成され、最後に腕を伸ばして撮影したセルフポートレートで〆ている。『ariphoto selection』をこれ以上見られなくなるのは残念だが、昨年林忠彦賞と日本写真協会作家賞をダブル受賞した写真集『TOKYO CIRCULATION』(Zen Foto Gallery)のように、また別な形で再編集版を刊行してほしいものだ。
2018/09/07(飯沢耕太郎)