artscapeレビュー
新鋭作家展 あ、これ、ウチのことです。
2019年09月01日号
会期:2019/07/13~2019/08/25
川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]
いちおう審査に関わったので内輪ネタになります。今回8回目を迎えた公募展だが、ただ作品を見て合否を判断するのではなく、1次審査で作品プランを検討し、2次審査で面接して2人に絞る。ここまではよくあるが、同展は地域性を重視するため、1年近く学芸員と相談しつつ現地を取材したり、住人たちと交わったりしながら作品を制作し、発表してもらうという大河ドラマのような流れなのだ。
今回選ばれたのは、蓮沼昌宏と上坂直の2人。パラパラマンガを手回しで見る装置「キノーラ」で知られる蓮沼は、ギャラリーに隣接する団地に住むおもに海外からの移住者に話を聞き、それをパラパラマンガに描き起こしてキノーラで見られるようにした。テーブルと椅子が年季が入っていると思ったら、閉店した団地内のレストランから運び込んだものだという。
美大で建築を学んだ上坂は、プラスチックの衣装ケースを何十個も積み上げて3棟の高層団地に見立て、引き出しのなかにミニチュアの靴や雑貨を置いたり、磨りガラスの奥で人影を動かしたりして部屋のように仕立てている。なんとなく団地の室内をのぞき見る感じ。動く人影も団地の住人の協力を得て撮影したものだそうだ。そんなわけで2人展のタイトルは「あ、これ、ウチのことです」。願わくば、団地の人たちがもっと見に来るように。
2019/08/07(水)(村田真)