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伊庭靖子展 まなざしのあわい

2019年09月01日号

会期:2019/07/20~2019/10/09

東京都美術館ギャラリーA・B・C[東京都]

伊庭靖子の作品を知ったのは20年くらい前、ケーキやゼリーなどのスイーツの一部を拡大してスーパーリアリズム風に描いていた頃だ。手法としては珍しくないが、ストイックな仕事ぶりに好感を持っていた。その後、モチーフはクッション、皿や瓶などの器に移行したものの、手法はほとんど変わっていなかったので、画家としていちおう「完成」したんだと思い、なんとなく興味も薄れていた。今回50点を超す大がかりな個展を見て、まだ「進化」の途上にあることを知り、あらためて感心した。

出品作品は、クッションや器のシリーズなど旧作もあるが、ぼくの知らない近作・新作が半数以上を占めている。それは、モチーフこそ器だが、それをガラスケースやレース越しに見る設定だろうか、外の景色がレイヤーとして重ね描きされたものだ。これによって空間が重層化される一方、器の存在感が半減する。にもかかわらず奥行きが強調されるわけでもなく、不思議と平面性を保っている。画面自体がガラスか鏡のような半透明感を有している、といえばいいか。工芸的なまでの卓越した描画の賜物だろう。菅野由美子にしろ堀込幸枝にしろ「器」を描く女性画家は少なくないが、いずれも器そのものを描くというより、器のある空気を描こうとしているのが興味深い。

と思ったら、最後の部屋では新作の風景の版画や映像も公開していて、あれれ、どうしちゃったんだろう? 4半世紀のゆったりとした流れが、ここにきて急流に変わっていくような気配。

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2019/08/02(金)(村田真)

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