2019年09月15日号
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artscapeレビュー

柚木沙弥郎の「鳥獣戯画」

2019年09月01日号

会期:2019/07/13~2019/09/08

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

柚木沙弥郎というと、民藝運動に影響を受けた染色家のひとりという概念しかなかったが、本展を観て、版画や絵本、立体作品といった分野でも活躍していたことを知った。むしろこれらの作品の方が、作家としての力量を感じた。創作活動の原点に、工芸と美術、西洋と東洋、作家と職人といった二者の間での葛藤があったというから、民藝運動が提唱した「用の美」の枠に当てはまらない創作意欲が、きっと内心からあふれていたのだろう。まず、本展の最初に展示されていた一連の版画作品「ひまわり」に目を奪われた。これらはアルシュ紙に墨一色でひまわりの一生を力強く描いた作品群で、特に《老いたひまわり》は柚木自身の姿でもあると評され、枯れてなお孤高の美しさがあることを表現した点には心動かされた。



柚木沙弥郎《老いたひまわり》(2014)
モノタイプ、アルシュ紙 公益財団法人泉美術館蔵

圧巻は、2019年の最新作「鳥獣戯画」である。鳥獣戯画で思い浮かぶ京都の高山寺所蔵の絵巻物は、いまもなお多くの日本人に愛される漫画の原点として知られるが、柚木は森山亜土の舞踊劇『鳥獣戯画』に着想を得て、全長12メートルに及ぶ大作に仕上げた。主に第一巻(甲巻)に準拠した内容で、兎、猿、蛙、狐らを登場させ、射的、相撲、田楽、仏の供養など18の場面を描いた。柚木は鳥獣戯画の魅力について「そこには、生き物の生きる喜びや躍動する生命観が、閉鎖的で憂鬱な社会の潮流に流されないで描かれていると思うのだ」と語っている。柚木が描いた「鳥獣戯画」は、原書と比べると巧さには欠けるが、味わい深く、愛らしい筆致に映った。まさに「生き物の生きる喜びや躍動する生命観」が強調された形のようである。

本展の最後を締めくくったのは型染布のほか、絵本である。柚木はさまざまな絵本の原画を手がけているが、宮沢賢治の名作『雨ニモマケズ』に寄せた原画に、私は注目した。同作で語られる、勤勉で、健康で、無欲で、身の丈に合った暮らしのなかで、他人のために率先して行動する理想の農民像が、なんとなく柚木の作風と相通じるものを感じたからだ。ひと言で言えば、素朴ゆえの力強さだろうか。先の「鳥獣戯画」にもつながるが、生きる力強さかもしれない。『雨ニモマケズ』が書かれた昭和初期に比べると、いまの世の中にはそうした力強さが足りないように思う。だからこそ、いま、柚木の作品が見直されているのだろう。



柚木沙弥郎《いのちの樹》(2018)
型染、紬 作家蔵
[撮影:阿部健]

絵本『雨ニモマケズ』原画
(作:宮沢賢治 絵:柚木沙弥郎)(2016)
水彩、紙 公益財団法人泉美術館蔵

公式サイト:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2019_yunoki

2019/08/20(杉江あこ)

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