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シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート

2019年09月01日号

会期:2019/08/10~2019/12/01

ポーラ美術館[神奈川県]

「モネ、セザンヌ、ピカソ──。巨匠たちと出会う現代アート」とのキャッチコピーが踊る同展は、ポーラ美術館が誇る近代美術コレクションと、現代の12組のアーティストの作品をセットで紹介する、いわば「近現代」のコラボレーションの試み。

最初のセレスト・ブルシエ・ムジュノは、モネの《睡蓮》の隣に円形の青い池をつくり、大小の白い皿を浮かべた。それだけでも睡蓮のように美しく涼しげだが、水を流動させて皿同士をぶつけることで、乾いた音を響かせている。ムジュノはもともと音楽家で、偶然性を取り入れたサウンド・インスタレーションを展開しているアーティスト。これはさわやか。渡辺豊はセザンヌ、ピカソ、藤田嗣治の作品イメージを断片化してキュビスム風に再構築していく。今回なぜか写真が多数を占めるなか、数少ない絵画であること、近代絵画に正面から向き合っていること、出品作品が50点以上とハンパないこと、それを9点の近代絵画に織り交ぜて壁いっぱいに展示していることで、本日のベスト。最後の部屋のオリヴァー・ビアは、10数点の東洋陶磁コレクションを台座の上に並べ、器にマイクを仕込んで反響音を増幅させ、音楽を生み出している。壷たちのオーケストラだ。音楽関連でマティスの《リュート》が掲げられているが、これはオマケみたいなもの。

屋外の遊歩道にも1点、スーザン・フィリップスのサウンド・インスタレーションがある。森の木の幹に設置された11個のスピーカーから、ラヴェル作曲「シェヘラザード」の「魔法の笛」におけるフルートの旋律を断片化した音が流れてくる仕掛け。対する近代美術は「印象派」となっているが、これは印象派の画家たちが屋外で制作したことに因んだ選択で、実際に作品が屋外に飾られているわけではない。

こうしてみると、音を使った作品に佳作が多いことに気づく。まあ美術館や森のなかで音を出せばつい聞き惚れてしまうので、ずるい気がしないでもないが。でもほかに写真の作品が5組ほどいたけど、その多くは自作の写真を近代絵画と組み合わせただけで、展示にあまり工夫が感じられない。それに比べれば、サウンド・インスタレーションのほうがはるかにイマジネーションに富んでいた。

2019/08/09(金)(村田真)

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