artscapeレビュー
山内道雄「LONDON」
2019年09月01日号
会期:2019/08/09~2019/08/31
Zen Foto Gallery[東京都]
Zen Foto Galleryでの個展にあわせて刊行された同名の写真集の「後記」に、山内道雄がギャラリーのオーナーのマーク・ピアソンから「ロンドンの写真がない」と言われたと書いている。たしかに、ロンドンを撮影した現代写真はあまり見たことがない気がする。ロンドンはあまりにも「人工的で成熟した都市」であり過ぎて、写真家たちの写欲をそそらないのではないだろうか。
そう考えると、わずか3カ月あまりの滞在で、これだけ多様な、しかもクオリティの高い写真を撮影できた、山内のスナップシューターとしての底力に驚かされる。午前中は宿に近いキングス・クロス駅近くを、午後からは中心部のピカデリー・サーカスやテムズ川周辺を、そして夕方にはオックスフォード・ストリートというコースを、ほぼ毎日行き来して撮影した写真をまとめたシリーズだが、そこには確実に2010年代後半のロンドンの空気感が写り込んでいる。
機材をデジタルカメラに変えてから、山内の撮影のスタイルはより軽やかなものになった。それでも、いきなり目に飛び込んでくるような「ヤバい」写真がたくさんある。滞在途中で盗難にあったこともあって、本人は質、量ともにやや物足りないと思っているようだ。だが、展示にも写真集にも、路上スナップの王道とでもいうべき活気と熱量を感じる。山内は1950年生まれだから、もう70歳近いのだが、健脚はまだまだ衰えていないようだ。
2019/08/23(金)(飯沢耕太郎)