artscapeレビュー

原田治展 「かわいい」の発見

2019年09月01日号

会期:2019/07/13~2019/09/23

世田谷文学館[東京都]

中学生のころ、ご多分に洩れず、私も持っていたなぁ。と、思わず懐かしい気持ちに駆られた「OSAMU GOODS(オサムグッズ)」。ミスタードーナツの景品に至っては、オサムグッズ欲しさに、私はドーナツを購入した口である。しかし本展を観て、原田治のイラストレーションの実力はそれだけに留まらないことを痛感した。1970〜1980年代の初期の仕事を見ると、特に雑誌の表紙や挿絵では、同じ人が描いたとは思えないほど、実に多彩なタッチのイラストレーションを描いていたからだ。もともと、米国のコミックやTVアニメ、ポップアートなどから影響を受けたという面も頷けるし、表現力の幅が広い器用なイラストレーターだったのだろう。

とはいえ、それだけでは一世を風靡するイラストレーターにはなれない。原田はその後すぐに「かわいい」という要素を武器に、大きく舵を切っていく。その理由とでもいうべき、原田の言葉がとても印象的だ。「イラストレーションが愛されるためには、どこか普遍的な要素、だれでもがわかり、共有することができうる感情を主体にすることです」。それが「かわいい」だったのだ。しかもそれは巧妙に計算し尽くされた「かわいい」だった。「終始一貫してぼくが考えた『可愛い』の表現方法は、明るく、屈託が無く、健康的な表情であること。そこに5%ほどの淋しさや切なさを隠し味のように加味するというものでした」。ちょっと驚いたような表情や考えるような表情、眠い表情などを浮かべるオサムグッズの少年少女、動物たちには、そんな仕掛けがあったのだ。

© Osamu Harada / Koji Honpo

1970〜1980年代は、グラフィックデザイン業界においてイラストレーション全盛の時代でもあった。原田とも親交があった安西水丸やペーター佐藤をはじめ、田名網敬一、横尾忠則、宇野亜喜良、大橋歩らが活躍した。彼らのなかでも、原田は特にビジネス的に成功したイラストレーターと言える。例えばカルビー「ポテトチップス」のキャラクター、日立「ルームエアコン 白くまくん」のキャラクター、ECCジュニアのキャラクター、東急電鉄の注意喚起ドアステッカー、崎陽軒「シウマイ」の醤油入れ(ひょうちゃん)など、企業広告や各種グッズの展示を観て、あれもこれも、原田の仕事だったことを思い知らされる。「かわいい」は子どもや女子中高生だけが感受する要素ではない。大人も心惹かれ、共感しうる要素であることを改めて実感した。

会場風景 世田谷文学館

会場風景 世田谷文学館


公式サイト:https://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html

2019/08/08(杉江あこ)

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