artscapeレビュー
江成常夫 写真展「『被爆』ヒロシマ・ナガサキ」
2019年09月01日号
会期:2019/07/23~2019/08/19
ニコンプラザ新宿 THE GALLERY[東京都]
「ヒロシマ・ナガサキ」は多くの写真家たちによって撮影されてきた。土門拳の『ヒロシマ』(研光社、1958)のように記憶に食い込んでいる作品も多いし、江成常夫が今回展示した、広島や長崎の原爆資料館に保存されている被爆者の遺品や放射線を浴びた遺物も、東松照明、土田ヒロミ、石内都らが撮影している。その意味では、使い古されたテーマといえなくもないが、江成がここ10年あまり撮影し続けてきた写真群を集成した展示を見ると、その凄みに震撼させられる。
椹木野衣は、本展にあわせて刊行された写真集『被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証』(小学館)に寄せたテキスト「十字架の露光=被爆=暴露(エクスポージャ)──江成常夫のヒロシマ、ナガサキ」で、江成の写真の「触覚的」な特質について述べている。そこには、対象との距離が「ゼロ」になるような「触覚的な危機」の体験が、「いのちの証」として刻みつけられているというのだ。これまで原爆遺品、遺物の写真の多くはモノクロームで撮影されてきた。そこでは被写体が象徴的なイコンとして捉えられている。石内都の『ひろしま』(集英社、2008)はカラーで撮影されているが、彼女は遺品を宙を舞うようなあえかなイメージとして提示した。江成は、遺品、遺物にぎりぎりまで接近し、精密なカラー写真によってその物質性を「暴露」しようとする。その愚直ともいうべき撮影の仕方と、各写真に付された詳細な解説によって、われわれはまさに1945年8月6日と9日の、爆心地の地上で3000〜4000度、爆風の最大風速400メートル毎秒という恐るべきエネルギーの場に直面させられるのだ。なお、本展は8月29日〜9月11日にニコンプラザ大阪 THE GALLERYに巡回する。
2019/08/05(月)(飯沢耕太郎)