artscapeレビュー
村上慧 移住を生活する
2021年04月01日号
会期:2020/10/17~2021/03/07
金沢21世紀美術館[石川県]
美術館の奥まった通路の壁に貼られた地図に導かれて展示室に入ると、屏風状のボードが林立し、さまざまな建物のスケッチや日記風のメモ、写真、映像などが展示されている。村上は東日本大震災をきっかけに、手づくりした発泡スチロール製の「家」を担いで国内外を巡り歩く「移住を生活する」というプロジェクトを続けてきた。その歩いたルート、泊めてもらった建物のスケッチ、出会った人たちの写真、日々の出来事をつづった日記などを公開しているのだ。
三角屋根の発泡スチロール製の「家」はいかにも日本家屋風に仕立てられ、見ようによっては籠か、宮型霊柩車のようでもある(サイズ的には横になって寝るだけなので棺桶を連想させる)。そんな「家」を担いで歩く姿はちょっとイカれた兄ちゃんで、すれ違う人はどう反応したらいいのか戸惑う様子が映像からうかがえる。いやそんなことより、このプロジェクトで興味深いのは、本来不動産である家を動かすこと、それによって家にまつわるさまざまなしがらみをあぶり出し、「家」とはなにか、「住む」とはどういうことかをわれわれに突きつけてくることだ。たとえば、夜はさすがに路上泊は危ないので、地元の人に頼み込んで建物内に泊まらせてもらう。「家」があるのに土地を借りる交渉をしなければならず、成立すれば「家」が家に泊まることになる。すると村上は、定住者であると同時に移住者になり、また二重の「家」に守られたホームレスということになる。そんなジレンマに満ちた境界線上を綱渡り的に歩き続けること自体が、現代の管理社会に対する優れた批評にもなっている。
2021/02/25(木)(村田真)