2021年10月15日号
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artscapeレビュー

第四回入江泰吉記念写真賞受賞 岩波友紀「紡ぎ音」

2021年04月01日号

会期:2021/02/20~2021/03/28

入江泰吉記念奈良市写真美術館[奈良県]

入江泰吉記念奈良市写真美術館では2年に一度、入江泰吉記念写真賞を公募している。その4回目の受賞者に選ばれたのが岩波友紀の「紡ぎ音」で、その受賞展に合わせて同名の写真集も刊行された。

東日本大震災後に福島の猪苗代町三郷に移住した岩波は、2013年頃から岩手県、宮城県、福島県の太平洋沿岸部の祭礼、民俗芸能を撮影しはじめた。祭事が震災で断ち切られた土地と人との関係をつなぎとめ、震災で亡くなった多くの死者たちを鎮魂するために大きな意味を持っていることに気づいたからだ。以来、7年余り撮り続けた写真群をまとめたのが本シリーズである。取材・撮影した祭事の数は100以上に達している。結果的にそれらの写真は、「『復興』をめざして頑張る姿」といった表層的な理解の「その奥にあるものを知りたくなった」という彼の欲求に応えるとともに、新たに構築されつつある地域コミュニティの現在の状況をさし示す貴重な記録となった。

岩波の写真のたたずまいは端正で美しい。それも重要なことだと思う。もちろん、祭礼や民間芸能のドキュメントとして、しっかりと被写体をカメラにおさめているのだが、それだけでなく、色調や構図など写真一点一点のクオリティに気を配り、相互の関係性に細やかに配慮して写真を組んでいる。そのことで、東北の凛烈な風土そのものの、魂を揺さぶる力をあらためて感じさせてくれる展示になった。写真集も、岩波の写真の特質を活かして、丁寧なレイアウトの正統的な造本に仕上がっている(デザイン・田中義久、西倉美朔)。今年は、東日本大震災から10年目の区切りの年にあたる。10年前に何が起こったのか、そしてこの10年で何が変わったのか、あるいは変わらないのかを、もう一度問いかけるいい仕事だ。

2021/02/19(金)(飯沢耕太郎)

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