artscapeレビュー
亀山亮「メキシコ・日常の暴力と死」
2021年04月01日号
会期:2021/02/18~2021/03/14
スタジオ35分[東京都]
亀山亮は20歳の時に「土方で稼いだ1万ドルとフイルム二百本を大きなザックに入れて」、しばらく日本に帰らないという覚悟でメキシコに旅立った。メキシコはフォト・ジャーナリストとしての亀山の原点となる場所となり、「第2の故郷」という思いを抱き続けてきたのだという。その彼が、久しぶりにメキシコを再訪したのは2017年で、冤罪で刑務所に入っていた友人のジャーナリストが、6年ぶりに出所してくると聞いたからだった。
メキシコでは麻薬カルテル同士の抗争が激化し、政治を巻き込んで暴力と死が日常茶飯事になっていた。今回の東京・新井薬師前のスタジオ35分での個展には、独自のルートを辿ってカルテルのメンバーとコンタクトをとって撮影した、腰の据わったルポルタージュが並んでいた。亀山の黒白写真のプリントを見ると、被写体となる現実に向き合う姿勢が真っ直ぐで、揺るぎないものであることがわかる。非常事態が日常化した状況において、これだけの透徹した眼差しを保ち続けるのは大変なことだ。むしろ、やや距離を置いて撮影したさりげない光景に凄みを感じる。
いい仕事だと思うのだが、フォト・ジャーナリズムの現場を考えると、このような写真をどう発表していくのかということについてはやや暗い気持ちになる。雑誌メディアがほぼ壊滅状態という状況で、写真展や写真集の可能性を探るということになるが、それも心許ない。亀山は展覧会に寄せたコメントに「メキシコでの低強度の戦争は今の経済システムが破綻して欲望のドグマが大爆発した結果でそれは翻って、日本に住んでいる自分たちにも深くつながっている問題だと感じる」と書いている。まったくその通りだが、メキシコの「日常の暴力と死」と「日本に住んでいる自分たち」の状況とを、どのように接続していくのかという問題の答えが用意されているようには見えなかった。
亀山は2014年に、いま住んでいる八丈島を撮影した写真集『DAY OF STORM』(SLANT)を刊行している。たとえば、八丈島とメキシコを結ぶ回路を設定することはできないのだろうか。
2021/03/04(木)(飯沢耕太郎)