artscapeレビュー
庵野秀明展
2021年11月15日号
会期:2021/10/01~2021/12/19
国立新美術館[東京都]
まず第一印象は、出し惜しみがないこと、また意外に撮影可能な展示物が多いことである。じっくり見ると、相当の時間を要する濃密な展覧会だった。全体は五章から構成され、第一章「原点、或いは呪縛」はかつて企画された「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」(2012)のような彼が影響を受けた作品群(ゴジラ、ウルトラマン、宇宙戦艦ヤマト、機動戦士ガンダムなど)、第二章「夢中、或いは我慢」は少年時代からエヴァンゲリオン旧劇版までの作品を豊富な資料で展示している。注目すべきは、やはり学生時代の絵画や映像、そしてプロ初期の作品だろう。すでにこの時点から、あとで開花する庵野の作家性を確認できるからだ。続く第三章「挑戦、或いは逃避」は、実写の映画からエヴァンゲリオン新劇版までを扱い、第三章の巨大な模型が目を引く。第四章「憧憬、そして再生」は今後公開される「シン・仮面ライダー」と「シン・ウルトラマン」の予告であり、第五章「感情、そして報恩」はアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)などの取り組みを紹介する。いわば、過去(第一章)・現代(第二、三章)・未来(第四、五章)という展開になっており、とてもわかりやすい。
もっとも、膨大な展示物に対する個別の解説はもっと欲しいし、テーマなどの設定がなく、第三者からの視点によるキュレーションはやや物足りない。もちろん、読みとるべきラインは無数に存在し、それは鑑賞者のリテラシーに委ねられる。ともあれ、ものづくりに関連する人にとって刺激的な内容であることは間違いない。個人的に一番感心したのは、最後のATACである。というのは、以前、「館長 庵野秀明 特撮博物館」展を見たとき、これは常設で存在して欲しいと思ったからだ。いずれ、そうした公立や国立の施設が誕生するかもしれないが、待っていては手遅れになるかもしれない。ATACは、アニメや特撮を創造する過程で生ずる中間の制作物や資料を文化として可能な限り後世に残したいという目的で設立され、円谷英二の出身地である福島県須賀川市と連携している。しかも、特撮博物館展の全国巡回が契機になったという。つまり、トップ・クリエイターが自らの原点となった過去の作品群への敬意を示し、その恩返しとしてアーカイブ事業を推進している。
2021/10/20(水)(五十嵐太郎)