artscapeレビュー
中之条ビエンナーレ2021と原美術館ARC
2021年11月15日号
[群馬県]
コロナ禍のため、スタートが遅れていた中之条ビエンナーレを、総合ディレクターの山重徹夫氏の案内により、伊参エリアの山間部を中心に、一足先に見学することができた。実は筆者にとって初めての訪問であり、聞いてはいたが、参加するアーティストのラインナップを含めて、確かにほかの芸術祭とだいぶ雰囲気が違う。必ずしも潤沢な予算ではなく、派手なアイコン的な作品はないが、長めの滞在制作がメインなので、やはり手をかけ、時間をかけた作品群は心を打つ。例えば、西島雄志による宙に浮かぶ鳳凰(旧五反田学校)や中村岳による屋外の大がかりな構築物(親都神社)のほか、鳥越義弘の室内インスタレーション(道の駅「雪山たけやま」)、古建築の瓦を再利用した三梨伸(やませ)、遺跡を制作する宮嵜浩(BOMBRAI WEST)(伊参スタジオ)、トモミトラベルのツアー(旧第三小学校)、CLEMOMOによる粘土群イサマムラ(旧伊参小学校)などが印象に残った。また今回はいつもより長期滞在組が少なかったり、海外組はオンラインの設営になったりしたとはいえ、「PARAPERCEPTION 知覚の向こうから」というコロナ禍を逆手にとったテーマを設定したことも興味深い。
その後、2021年4月にリニューアルした原美術館ARCを青野和子館長の案内でまわった。ここは久しぶりの再訪だったが、山と自然に囲まれており、晴れた日にとても気持ちが良い建築である。増築された觀海庵へのアプローチから眺める風景も素晴らしい。また分棟型の展示室が、それぞれ外部と直接につながる開放的な空間は、磯崎新にはめずらしいデザインかもしれない。1988年の開館時から存在するピラミッド型屋根をもつギャラリーAは、現代アートの大型の作品も通用する空間である。磯崎新アトリエ出身の吉野弘の設計により、品川の原美術館から部屋ごと移設した奈良美智や森村泰昌のインスタレーションも、ギャラリーBやトイレの横などの新しい場所にぴたっと入っていた。ほかにも館の内外には、草間彌生、束芋、イ・ブル、オラファー・エリアソン、ジャン=ミシェル・オトニエル、鈴木康広などの作品が組み込まれ、常設で彼らの作品を楽しむことができる。また吹き抜けの開架式収蔵庫では、キリンアートアワード2003の展覧会で筆者が担当した名和晃平の初期作品と思いがけず再会した。
中之条ビエンナーレ2021
会期: 2021年10月15日(金)〜11月14日(日)
会場:群馬県中之条町 町内各所
2021/10/03(日)(五十嵐太郎)