artscapeレビュー

富岡の隈研吾建築

2021年11月15日号

[群馬県]

TNAが設計した《上州富岡駅》(2014)で待ち合わせをして、群馬県の建築コンペの仕かけ人として知られる新井久敏氏の案内により、手塚建築研究所の《商工会議所》(2018)、HAGI STUDIOの《富岡まちやど 蔟屋 MABUSHI-YA》、そして隈研吾による建築などをまわった。富岡は駅舎が完成した直後に訪れて以来だったが、いつの間にか、さまざまなタイプの隈作品が増えていたことに驚かされた。まず駅のはす向かいにたつ《群馬県立世界遺産センター》(2020)と《3号倉庫》(2019)は、いずれもリノベーションである。特筆すべきは、CFRPのロープを張りめぐらせることによって、木造小屋組みを補強していることだ。一見弱そうな素材の選択であり、興味深い手法だが、言うまでもなく、近代の製糸場によって世界遺産に登録された街の歴史を意識したものだろう。地域ごとのローカリティへの配慮こそが、結果的に彼をグローバルな建築家に押し上げた。なお、《2号倉庫》も隈研吾建築都市設計事務所が担当し、改修中である。続いて倉庫群と道路を挟んで、隈による《富岡市役所》(2018)がたつ。分棟の形式、アルミニウムと木のルーバー、張り出す庇などを特徴とする、開かれた公共空間だ。


《上州富岡駅》



《商工会議所》



《富岡まちやど 蔟屋 MABUSHI-YA》



《群馬県立世界遺産センター》



《3号倉庫》



富岡市役所


そして圧巻は、新しく公開された富岡製糸場の《西置繭所》(2020)の保存修理プロジェクトである。これは日本空間デザイン賞2021の博物館・文化空間部門において金賞を受賞した。注目すべき手法は、国宝に指定された近代建築の内側に補強を兼ねた大きなガラスの箱を挿入していること。なぜなら、そこがかつての工場の使われ方を紹介する展示施設であると同時に、壁の落書きや改修の履歴なども含めて、建築そのものが重要な展示物であるからだ。つまり、観賞者は展示ケース=ガラスの箱の内側に入って、天井や壁などを見ることになる。また《西置繭所》の展示設計も、カッコいい。例えば、昔使われていた什器などを積極的に再利用している。富岡製糸場はまだ公開されていないエリアが多く、一部を見せてもらったが、現代アートの展示にも使えそうなダイナミックな大空間だった。今後、こうした場所をどのように見せいていくかも楽しみである。


《西置繭所》


2021/10/4(月)(五十嵐太郎)

2021年11月15日号の
artscapeレビュー