2021年12月01日号
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artscapeレビュー

柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」

2021年11月15日号

会期:2021/10/26~2022/02/13

東京国立近代美術館[東京都]

さしずめ柳宗悦は、いまどきの言葉で言えば、民藝運動のエグゼクティブプロデューサーという立場だったのだろう。民藝については、私もある程度理解を深めてきたと思っているが、本展を観て改めて感じたのはこの点である。宗教哲学者だった柳は、民藝という新しい美の試みとその思想を打ち立てるのに貢献した。また仲間の濱田庄司や河井寬次郎、バーナード・リーチ、芹沢銈介といった陶芸家や染色家たちの力を借りながら、日本全国や朝鮮半島から陶磁器などの工芸品を発掘し評価したことは知られている。しかし彼らは単なる評論家集団というわけではなかった。現代でも手本にできるのではないかというほど、相当、メディア戦略ないしビジネス戦略がしっかりとしていたからである。

それが「民藝樹」として図表が残る、民藝運動の三本柱だ。その3本とは美術館、出版、流通である。工芸品を集めて、見せる役割を担う美術館は「日本民藝館」。広げて、つなげる役割を担う出版は雑誌『工藝』をはじめとする刊行物。そしてつくって、届ける役割を担うショップは「たくみ工藝店」と、現に彼らは実践に移した。出版によって美術やデザイン運動を広げようという試みは、欧州諸国でもよくある。しかし3本も同時進行できるだろうか。現代においてもなお我々が民藝に魅了され続けるのは、このメディア戦略があったからだろう。なぜなら、この三つの拠点や媒体は規模や影響力の差こそあれ存続し続けているからだ。


雑誌『工藝』第1号〜第3号(1931/型染・装幀芹沢銈介)[写真提供:日本民藝館]


展示風景 東京国立近代美術館


本展は1910年代から1970年代にわたる60年間を追った展示構成で、非常にボリューム満点であった。唐津焼や伊万里焼、古武雄の鉢など、わが家にある陶磁器もちらほらとうかがえ、その工芸品の数々は見応えがあった。加えて、民藝運動の営みがよくわかる内容となっていた。そのうえで、こう思う。もし柳宗悦が現代も生きていたとしたら、どのようなプロデュースをするだろうか。民藝は過去に起こった運動だ。現代には現代にふさわしい工芸やデザイン運動があって然るべきだろう。民藝に魅了され続けながらも、我々は未来を見据えなければならない。いま、柳宗悦のような敏腕エグゼクティブプロデューサーの登場が強く望まれている。


《スリップウェア鶏文鉢(とりもんはち)》イギリス 18世紀後半 日本民藝館


《染付秋草文面取壺》(瓢形瓶[ひょうけいへい]部分)朝鮮半島 朝鮮時代 18世紀前半 日本民藝館



公式サイト:https://mingei100.jp

※ポスタービジュアル:《羽広鉄瓶》羽前山形(山形県)1934頃 日本民藝館

2021/10/27(水)(杉江あこ)

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