artscapeレビュー

日野之彦「窓辺」

2021年12月01日号

会期:2021/10/15~2021/11/20

SNOW Contemporary[東京都]

タイトルどおり窓辺にたたずむ少女像を含む絵画4点に、小品やドローイングを加えた展示。最初の1点は、窓をバックにした少女の胸から上の像で、日野独特の大きく見開いた目が特徴だが、今回はその背後に描かれた窓の外の鮮やかな緑の風景にも焦点が合っている。また、窓の縁の垂直線を画面の左右端に入れることで、窓ガラスを挟んで屋内の少女と外の風景が別の世界であることを示すと同時に、矩形の絵画形式を強調してもいる。もう1点は窓辺に寄りかかり、片手を窓ガラスに触れた同じ少女の全身像。こちらは窓枠と床の線で縦長の画面が4分割され、そこに少女の長い手足が左上から右下へと斜めに横切る構図だ。目を引くのは窓の描写で、表面に手や雑巾の拭き跡が残っていて、その曇りガラス越しに外の風景がうっすらのぞいていること。それだけでなく、モデルの腕の反射まで描き込んでいる。

あとの2点は小太りの男性を描いたもので、「窓辺」とは関係なさそうに見える。1点は太鼓腹もあらわに上半身裸で横たわったもので、見開いた目が気持ち悪いが、対象に文字どおり肉薄していて、色彩や筆づかいはルシアン・フロイドを思わせる。最後の1点はおそらく同一人物の顔を描いたもの。こちらは眼鏡をかけているが、じつはその眼鏡に窓が反射し、さらに窓の外の風景まで描いているのが見て取れる。なるほど、彼も窓辺にいるのだ。その眼鏡の反射の奥には大きな目も描かれ、その瞳にはどうやらこちら側が映っている。つまり、眼鏡に反射して窓が見え、その窓を通して外の風景が見える一方で、眼鏡を通して目が見え、その目に反射してこちら側が見えているということになる。眼鏡のガラス面という小さなスペース内に、イメージの反射と透過が幾層にも織り重ねられているのだ。言葉でいうのもわずらわしいが、それを絵に描くとなるとさらに困難な作業だったに違いない。

2021/11/19(金)(村田真)

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