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柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年

2021年12月01日号

会期:2021/10/26~2022/02/13

東京国立近代美術館[東京都]

「民藝」とはなにか、なにがおもしろいのか、よくわからなかった。同展カタログによれば、「民藝」とは「1925年に柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎によって作られた新しい美の概念で、『民衆的工藝』を略した言葉」だそうだ。「工芸」が一般に巧みな技術によって創造された美的産物で、大量生産品より芸術性があり高価なものだとすれば、「民藝」はそれをより大衆化した安価なものらしい。いや、順序が逆か。そもそも「民藝」は人々の暮らしのなかに息づいていたが、そのなかから「芸術」を目指して美的にも技術的にも洗練されたものが「工芸」として差別化され、民藝は工業製品に押されて先細りになっていった。だから柳宗悦らはそれを「再発見」し、守らなければならなかったのだろう。あ、少しわかってきた。

ところで、「工芸的」という形容は、少なくとも美術作品に対してはホメ言葉ではなく、おおむね否定的に使われるが、「民藝的」といわれればどうだろう? 工芸的よりさらに格下かと思ったらそうでもなく、むしろ素朴で暖かく、人間味が感じられ、一周回って肯定的に受け止められないだろうか。うーん、やっぱりよくわからない。

展覧会のほうは、作品に興味を持てないのでほとんど素通りしたが、いくつか引っかかる点があった。ひとつは、民藝運動が単なる好事家たちの趣味などではなく、生活道具をとおして社会を美的に変革しようという文化活動、思想運動であったこと。これって、ウィリアム・モリスの提唱したアーツ&クラフツ運動と似てなくね? 確かに展覧会でもカタログでもアーツ&クラフツには触れられているけれど、両者にどれほどの影響関係があったのかは不明だ。もっともアーツ&クラフツは民藝より半世紀ほど前の運動だし、モリスも19世紀末には亡くなっていたから、民藝が関心を持ち始めたころにはすでに美術館入り(つまり「芸術化」「歴史化」)していたのかもしれない。

もうひとつは、彼らが『月刊民藝』に掲載した「民藝樹」という図。1本の木から枝が3本に分かれ、それぞれ「たくみ工藝店」「日本民藝館」「日本民藝協会」という実がなっている。これは民藝運動の三本柱を示すもので、たくみ工藝店は民芸品を販売するセレクトショップ、日本民藝館は民芸品の収集・保存・展示を行なう美術館、日本民藝協会は機関誌『工藝』『月刊民藝』などを出版する本部のこと。それぞれ市場価値を決定するマーケット、美的価値を保証するミュージアム、社会的価値を広めるパブリシティという三位一体を表わしているのだ。ここからも彼らがきわめて戦略的に運動を進めていたことがわかる。

最後に、「国立近代美術館を批判する」というコーナーを設けていたことにも注目したい。これは1958年に柳宗悦が『民藝』に発表した「近代美術館と民藝館」という批判記事に基づくもので、日本民藝館は「国立」「近代」「美術」を否定し、「在野」「非近代」「工芸」の立場に立つと主張したのだ。いってみれば日本民藝館は「在野立非近代工芸館」というわけ。その批判された近代美術館が民藝館からコレクションを借りて「民藝」展を開くと知ったら、柳は喜ぶだろうか、嘆くだろうか。

2021/10/25(月)(村田真)

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