artscapeレビュー
赤鹿麻耶「ときめきのテレパシー」
2021年12月01日号
会期:2021/10/14~2021/11/24
キヤノンギャラリーS[東京都]
赤鹿麻耶は2011年に「風を食べる」で第34回写真新世紀グランプリを受賞後、コンスタントにユニークな作品を発表し続けてきた。今回のキヤノンギャラリーSでの個展は、規模的にも、内容においてもその集大成となるものといえるだろう。
赤鹿にとっての「良い写真」とは、「初めて触れるような『ときめき』」を感じさせるものだという。さらにその先には「信じることで生まれる『テレパシー』」がある。そこには、作品を制作して終わりではなく、そこで生み落とされたメッセージを、観客にしっかりと伝えなければならないという赤鹿の強い思いがあるのではないだろうか。そのコミュニケーションへの欲求が、やや過剰とさえ思えるようなサービス精神として展開される時、観客を巻き込んでいくようなエネルギッシュな作品群に結実していく。今回の展示でも、30点余りの大判プリントを中心に、コラージュ、映像作品などが並び、めくるめく視覚的なスペクタクルが実現していた。
赤鹿の写真には、演出して作り込んだポートレイト、パフォーマンスの記録と、出会い頭のスナップ写真の二つの系譜がある。本展でも両方の傾向が混じり合っているのだが、どちらかというと後者の比率が高くなってきているように感じる。予測不可能な偶発的なイメージを取り込む力が増してきたことで、固定観念に大きく揺さぶりをかけるような指向性が、より強まってきているのだ。日本だけでなく中国で撮影された写真も多く、「『2021年の私』がセレクトした良い写真たち」のあり方がくっきりと浮かび上がってきていた。そろそろ「風を食べる」以降の仕事を、写真集にまとめてもいい時期が来ているのではないだろうか。
2021/11/15(月)(飯沢耕太郎)