artscapeレビュー

百々武「生々流転」

2021年12月01日号

会期:2021/10/26~2021/11/08

ニコンサロン[東京都]

百々武が前回ニコンサロン(当時は新宿ニコンサロン)で展覧会を開催したのは、2001年だという。ビジュアルアーツ専門学校大阪の卒業制作「西蔵公路」を展示したのだが、その頃の写真と比較すると、月並みな言い方だが彼の写真家としての成長を感じる。20年間という年月を経て、被写体に向ける眼差しに深みが加わり、事物の背後に広がる時空間を写真に取り込むことができるようになった。初個展から20年目の今回の展示は、彼にとってもひとつの区切りとなるのではないだろうか。

百々は2017年、吉野川の源流域で林業が盛んな奈良県川上村に、家族とともに移住した。今回の個展の出品作は、それ以後に撮影した写真から選んだもので、村民との交流、祭りなどの行事、集落の建物、さらに村を包み込む森や川などの自然環境を、6×6判のフォーマットの画面にしっかりと写し込んでいる。モノクロームのプリントは、川上村で伐採された檜造りのフレームにおさめられ、絶妙な距離感で並んでいた。その間に、やや大判のカラー写真が挟み込まれていたが、そのバランスがとてもうまくいっている。黒白写真は凝視力が強く、カラー写真は包み込むような雰囲気を感じさせる。もう少し大きな会場なら、点数をもっと増やすことができたはずだが、これはこれでよく考えられ、コンパクトにまとまった展示構成になっていた。

このシリーズはむろんこれで終わりというわけでなく、さらに続いていくはずだ。子供たちの成長とともに、百々の村でのポジション、人間関係も変わっていくだろう。それらを積極的に取り込んだ、文字通りの「生々流転」のドキュメントとして展開していってほしい。なお、Case Publishingから同名の写真集が刊行されている。

2021/10/27(水)(飯沢耕太郎)

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