artscapeレビュー
カタログ&ブックス | 2021年12月1日号[テーマ:妖怪]
2021年12月01日号
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、豊田市美術館で開催中の「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」にちなんで「妖怪」。このキーワードに関連する、書籍の購買冊数ランキングをお楽しみください。
「妖怪」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:シネマスクエア vol.128
平野紫耀『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜ファイナル』 北山宏光/橋本良亮/重岡大毅/岸優太 (HINODE MOOK)
『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』平野紫耀/河合勇人 監督
『妖怪大戦争 ガーディアンズ』赤楚衛二
『サマーフィルムにのって』金子大地
ほか掲載
2位:まんが訳 稲生物怪録(ちくま新書)
絵巻物がまんがで読める! 大好評第二弾は、妖怪ファン垂涎の江戸怪談の名作。化物屋敷で夜な夜な妖怪と遭遇する、平太郎少年の運命は──。木場貴俊解説。
時は江戸、寛延二年。備後国三次の武家の子息で、一六歳の稲生平太郎は、肝試しのため比熊山に入った。その山にある「天狗杉」に触れると、物怪の祟りがあるという。果たして山を下りた平太郎の住む屋敷を、一カ月にわたって様々な怪異が襲う──。じわりと怖い、でもどこかユーモラス。江戸時代に実話として流布し、泉鏡花や水木しげるも愛した怪談「稲生物怪録(いのうもののけろく)」を、まんがで楽しむ。
3位:鳥山石燕 画図百鬼夜行 全画集(角川ソフィア文庫 Kwai books)
かまいたち、火車、姑獲鳥(うぶめ)、ぬらりひょん──。あふれる想像力と類まれなる画力で、さまざまな妖怪の姿を伝えた江戸の絵師・鳥山石燕。その妖怪画集全点を、コンパクトに収録した必見の一冊!
4位:あやしの繪姿 九鬼匡規画集(TH ART SERIES)
妖艶なるファム・ファタールから、コケティッシュな愛らしい少女まで、怪異や妖怪を女性像で描いた初画集。「おさん狐」「飛頭蛮(ろくろくび)」「つらら女」などを収録。
5位:1日3分読むだけで一生語れるモンスター図鑑
誰もが知っている定番キャラから、各地でひっそりと言い伝えられる妖怪まで、世界中から100体以上のモンスターを集めて図鑑にしました! 雑魚級からラスボス級までの6段階に分けて、十人十色のモンスターを誕生の経緯から生い立ち、その宿命などエピソードを交えて紹介! 全ての冒険を終えたころには、あなたも立派な英雄に!?
6位:武蔵野樹林 vol.7(2021)
大特集 妖怪大戦争ガーディアンズ〜映画の聖地所沢〜(ウォーカームック)
旧石器・縄文時代から文化的生活が営まれていた武蔵野の、文化探検から始める生き方マガジン。vol.7は、武蔵野台地が舞台になる2021年8月公開映画「妖怪大戦争ガーディアンズ」を大特集し、その見所等を紹介する。
7位:妖怪草紙 くずし字入門(シリーズ日本人の手習い)
江戸の草双紙に登場する愉快な妖怪たちがナヴィゲーターのユニークなくずし字入門書。著者秘伝の「ステップアップ」で基本文字150を確実に習得。練習問題、コラムも充実。
8位:妖怪萬画 vol.1 妖怪たちの競演
「百鬼夜行絵巻」をはじめ、平安時代から明治初期にかけて描かれた妖怪画(絵巻物)を豊富に掲載。大衆性や戯画的表現から、妖怪画の祖型をたどり、その系譜を読み解く。辻惟雄と板倉聖哲の対談も収録。
9位:妖怪
史上初! 妖怪絵を圧巻の拡大図とボリュームでみせる豪華画集
日本ではじめての妖怪専門のミュージアム、湯本豪一記念日本妖怪博物館〈三次もののけミュージアム〉のコレクション60点超を、圧巻のボリュームとディテールで紹介! モノノケを描く絵師たちの技量の極みをご堪能ください。
収録作品例:お化け絵巻 百鬼夜行絵巻 狂歌百鬼夜興 後鳥羽法皇の夢中に現われたる妖怪図 鳴屋図 化物歌合せ絵巻 異形河童図 百鬼図 大石兵六 大津絵狐図 化け狐図絵馬 大津絵源頼光図 虁図 阿磨比古 怪奇伝承図誌 水虎図説 左甚五郎と河童図 病現之図絵巻 幻獣尽くし絵巻 亀女 豊年魚 土州奇獣之図并説 尾州の人面蛇 鵺退治図 和漢百物語 信濃国大鷹退治 土蜘蛛襲来図 相馬旧御所 昔噺舌切雀 新形三十六怪撰おもいつづら 道化百物かたり 神農鬼が島退治絵巻 百物語化絵絵巻 化物づくし絵巻 百物語絵巻 肉筆 怪談模模夢字彙 稲亭物怪録 大時代唐土化物 化物和本草 狐団扇絵 本所七ふしぎ納札 化物の嫁入 百鬼夜行納札 など
10位:和ファンタジーのかわいい女の子が描ける本
和ファンタジーというテーマでキャラクターデザインの方法を解説。和風デザインの基礎知識をはじめ、妖怪・行事・道具・地名をモチーフにしたデザインを紹介。表紙イラストのメイキングも掲載する。
10位:妖怪萬画 vol.2 絵師たちの競演
戯画的表現に富み、諷刺がきいた妖怪画は、江戸時代の大衆に圧倒的な支持を得た。文化が熟爛した江戸中期から激動期の幕末、明治初期まで、葛飾北斎や歌川国芳、河鍋暁斎を筆頭に人気絵師が描いた妖怪画約150点を収録する。
10位:ギルガメシュ王の物語 新装版
ギルガメシュ王と荒野のエンキドゥ、森の守り手・妖怪フンババ退治、女神イシュタルの誘惑、エンキドゥの死、大洪水と生命の草、地獄めぐり…。楔形文字で粘土板に刻まれた叙事詩の原文を生かした邦訳。
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artscape編集部のランキング解説
あいちトリエンナーレ2019での《旅館アポリア》や、YCAM[山口情報芸術センター]とKYOTO EXPERIMENTで今年展示された《ヴォイス・オブ・ヴォイド─虚無の声》が記憶に新しい、シンガポール出身の作家ホー・ツーニェンによる個展「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」が、2022年1月23日(日)まで豊田市美術館で開催中です。展示タイトルにもなっている「百鬼夜行」のとおり、今作中で登場するのは闇を練り歩く奇怪かつ滑稽な100の妖怪たち。「ゲゲゲの鬼太郎」に始まり、フィクションでもたびたび描かれる「妖怪」「物の怪」は、日本人にとってはすっかり身近でユーモラスに感じられる存在のようですが、「芸術・アート」ジャンルの書籍ではどのようなものが人気を集めているのでしょうか。
ランキングを見ると、今年の夏に公開された映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』を特集する雑誌・ムック(1位、6位)とともに、「妖怪が(絵として/物語のなかで)どのように描かれてきたか」を知る一端となる書籍が大半を占めていました。新書・文庫判といったコンパクトなサイズに妖怪の図版がぎゅっと詰まっている本が複数見受けられたのも(2、3、8、10位)、ランキングとしては特徴的です。
古来から《百鬼夜行絵巻》《付喪神絵巻》といった絵巻物に登場するイメージの強い妖怪ですが、2位の『まんが訳 稲生物怪録』はなんと、江戸時代中期に実在した武士の子息・稲生正令(幼名:平太郎)が16歳のときに体験したさまざまな妖怪との遭遇を描いた絵巻物《稲生物怪録(いのうもののけろく)》を、サンプリング/カットアップ/リミックスするかたちで、漫画として再構築。コミカライズではなく、高解像度で再撮影した絵巻物をそのまま使うアイデアと、一枚絵として描かれていたものとは思えないコマ割りの演出力に驚かされます。《稲生物怪録》そのものの面白さだけでなく、漫画文化が培ってきた凄みまで感じられるおすすめの一冊。
妖怪が登場する「草双紙(くさぞうし/江戸時代に出版された絵入りの版本)」を事例としながら、現代の日本人にとっても判読の難しい「くずし字」の読み方を学ぶことができる『妖怪草紙 くずし字入門』(7位)も、非常にユニークな一冊。アメリカ人の日本文学研究者である著者アダム・カバット氏が妖怪草紙に触れ、「絵の周りに書かれている文章には、もっと面白いストーリーが書かれているに違いない」とくずし字を習得する過程での発見や想いを綴ったコラムも面白く、時代とともに大きなうねりを持って変化する日本語についても改めて考えさせられます。
『鳥山石燕 画図百鬼夜行 全画集』(3位)や『妖怪萬画』(8、10位)などを眺めると、「妖怪草紙」とひと口に言っても、たくさんの絵師がそのモチーフに向かい、多種多様なスタイルやバリエーションがあることに気付かされますが、その再解釈の営みは現代まで連綿と続いており(4、10位)。この先の未来にも描かれるであろう妖怪像が楽しみになるランキングでした。
2021/12/01(水)(artscape編集部)