artscapeレビュー

垣本泰美「Merge Imago」

2022年02月01日号

会期:2021/12/04~2021/12/25

The Third Gallery Aya[大阪府]

1976年、大阪生まれで京都在住の垣本泰美は、1999年に成安造形大学造形学部デザイン科写真専攻を卒業後、The Third Gallery Ayaを中心に写真作品の発表を続けてきた。「少女期の『記憶』をヴィジュアル化する」ことを主なテーマとして続けられてきた仕事は、かなりの厚みとふくらみを持ち始めている。近年は、スイス、スウェーデンなどでのレジデンス体験を元にしたシリーズに、制作の比重が移行し始めているようだ。今回同ギャラリーで7年ぶりに開催された「Merge Imago」展も、2017年12月のスウェーデン滞在中に撮影した写真群で構成されていた。

垣本が当地で特に心惹かれたのは「汽水域」の眺めだったという。真水と海水が混じり合うその場所のたたずまいは、人と人との交流、その記憶や意識の重なりとも通じあうものだった。今回の展示では、水域をテーマに撮影した風景だけでなく、森の樹木、羽ばたく鳥、蝶の標本、水晶などのイメージをちりばめることで、「溶けあってゆく」世界の様相を静かに浮かびあがらせようとしている。強化ガラスに大小のプリント(円型に切り抜いたものもある)を貼りつけ、「間」を配慮しながら壁に並べたインスタレーションが、とてもうまくいっていた。写真作家としての成長を充分に感じさせる、見応えのある展覧会となった。

写真家としての経験を積み、独自の手触り感を備えた写真の世界も、しっかりとかたちをとりつつある。ぜひ、これまでの仕事に撮り下ろしを加える形で、写真集をまとめてほしい。

2021/12/16(木)(飯沢耕太郎)

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