2022年10月01日号
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artscapeレビュー

笹岡啓子「The World After」

2022年02月01日号

会期:2021/12/11~2022/01/20

photographers’ gallery/KULA PHOTO GALLERY[東京都]

笹岡啓子は東日本大震災後の2011年4月から、その被災地となった岩手県、宮城県、福島県の太平洋沿岸部を撮影し始めた。それらはphotographers’ gallery での連続個展「Difference 3.11」(2012-2013)で発表されるとともに、2012年3月から刊行され始めた小冊子『Remembrance』(全41冊、KULA)にも収録された。今回のphotographers’ galleryでの個展は、その連作の中から124点を選んで出版した写真集『Remembrance 三陸、福島 2011-2014』(写真公園林、発売=ソリレス書店、2021)の刊行記念展として開催されたものである。

展示作品、及び写真集の収録作品を見て感じるのは、笹岡のアプローチが、震災後に夥しく撮影され、発表された被災地のほかの風景写真とは微妙に異なる位相にあるということだ。倉石信乃が写真集に寄せたテキスト「後の世界に──笹岡啓子の写真と思考」でいみじくも指摘しているように、笹岡は「震災直後の混沌と、2015年から21年までの『見かけ』の『復興』事業による土地の激変」の写真を除外している。つまり「よりシアトリカルでスペクタクルな事物の散乱や、事物の大がかりな再統合の様態はここには録されていない」のだ。結果的に本シリーズは、あくまでも平静な眼差しで撮影されたように見える、どちらかといえばフラットな印象の地誌学的な景観の集積となった。

むろん、個々の撮影時にはかなり大きな感情の振幅があったことは容易に想像がつく。だが、そのブレを極力抑えることによって、笹岡は震災後の「三陸、福島」の眺めを、「3・11」という特異点に収束させるのではなく、より普遍的、歴史的な広がりを持つ風景として再構築しようとした。笹岡が2011年4月に、岩手県大槌町で本シリーズの最初の写真を撮影した時、「写真で見たことがある被爆直後の広島に似ていた」と感じたというのは示唆的である。広島出身の笹岡にとって、「被爆直後の広島」の写真はいわば原風景というべきものであり、以後、彼女はそれを「三陸、福島」の眺めと重ね合わせるように撮影を続けていったということだろう。同時に、それらは写真を見る者一人ひとりにとっての「後の世界」を想起させる説得力を備えている。展示されている写真を見ながら、「どこかで見たことがある」という既視感を抑えることができなかった。

関連レビュー

笹岡啓子「Difference 3.11」|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2014年01月15日号)
笹岡啓子「Difference 3.11」|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2012年04月15日号)

2021/12/14(火)(飯沢耕太郎)

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