2022年10月01日号
次回10月17日更新予定

artscapeレビュー

冨安由真 個展:The Doom

2022年02月01日号

会期:2021/12/17~2022/01/23

アートフロントギャラリー[東京都]

アートフロントギャラリーは通りに面したグラスウォール(ガラス張りの壁)が特徴だが、冨安はこのグラスウォールを巧みに作品に採り込んでいる。それについて触れる前に、まずは横にあるエントランスからギャラリーに入っていこう。すると、正面に壁が立ちはだかり、ドアがついている。ドアを開けるともうひとつ部屋があり、中央にテーブルと椅子が置かれている。これだけなら入れ子状の部屋というだけの話だが、異様なのは、青白色に塗られた等身大の馬の模型の前脚がテーブルを貫通していること。つまりこの馬は実体のない幽霊のような存在、という設定なのだ。冨安によれば、馬は黙示録の死を象徴する「蒼ざめた馬」で、彼女が幼少期に見た夢の情景に基づいているという。

感心したのは、この異様な光景を、グラスウォールを通して外から丸見えにしたこと。ふだんはガラス越しに絵や立体作品が見えるのでギャラリーとわかるが、今回はまるでエルメスのショーウィンドーかなにかと勘違いしかねず(エルメスは馬がロゴマークに使われている)、なにごとかと足を止めてのぞき込む人も多い。この特徴的なグラスウォールをこんな風に活用したアーティストがいただろうか。

仕掛けはまだある。ドアから部屋に入ると、片側の床が上がり、天井が下がっていることに気づく。つまり部屋の奥をすぼませ、遠近感を歪ませているのだ。これは部屋に入ったときに強く感じるが、ガラス越しに外から眺めるとあまり不自然に感じることなく、実際より空間が広いように錯覚してしまうのだ。この空間の変容がまた、蒼ざめた馬のいる光景をいっそう非現実的なものにしている。ちなみに、部屋の奥をすぼませた結果、ギャラリーの奥に空間ができ、そこにも蒼ざめた馬をモチーフにした立体や映像を展示している。それらがなにを意味しているのかよくわからないが、彼女いわく「よくわからないものの中にこそ、大事なことが潜んでいる」。よくわからないまま安心して会場を後にした。

2021/12/17(金)(村田真)

2022年02月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ