2022年10月01日号
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artscapeレビュー

オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動

2022年02月01日号

会期:2022/01/22~2022/03/21

アーツ千代田 3331[東京都]

小池一子さんてだれ? と聞かれたとき、どのように紹介すればいいのだろう。そもそも彼女を「さん」づけすべきか迷ってしまう。ぼくは記事を書くとき、慣例的にアーティストの名前は敬称抜きだが、学芸員や評論家などその他の人たちには「氏」や「さん」など敬称をつける。小池さんはいわゆるアーティストではないけれど、ある意味アーティスト以上にアーティスティックなクリエイターだし、なにより今回は展覧会の主役でもあるので、小池一子と敬称抜きで記すべきかもしれない。とはいっても、40年近くおつきあいさせていただいている大先輩、やはり呼び捨てにするのははばかられるので、ここでは敬意を込めて「小池さん」と呼ばせていただきます。

で、小池さんを紹介すると、コピーライター、編集者、クリエイティブ・ディレクター、翻訳者、無印良品の企画・監修者、武蔵野美術大学名誉教授、東京ビエンナーレ共同代表、フェミニスト……。過去の肩書も含めると、元西武・セゾン美術館アソシエイト・キュレーター、元佐賀町エキジビット・スペース主宰者、元十和田市現代美術館館長……まだまだあるかもしれない。実に多彩な活動をされているので、ひとことで言い表わすことはできないが、共通しているのはいずれも名前や顔が表に出ることの少ない裏方仕事であることだ。そんな人物の展覧会とはいったいどんなものなのか。

展示は大きく、前半の「中間子」と後半の「佐賀町」の2部に分かれている。前半は、パルコや西武美術館、イッセイミヤケ、無印良品などのポスターが壁面を埋め、編集者やコピーライターとして関わった『週刊平凡』『森英恵流行通信』などの雑誌、デザイナー田中一光と制作した『JAPANESE COLORING』(リブロポート、1982)、『三宅一生の発想と展開ISSEY MIYAKE East Meets West』(平凡社、1978)などの書籍も公開。特にポスターは華やかで、広告デザイン全盛期の1970-80年代に見覚えのあるものがずらりと並ぶ。昨年開かれた石岡瑛子の回顧展を思い出したが、それもそのはず、石岡と共作したポスターもある。石岡もアートディレクターとして、写真家やデザイナー、イラストレーターらをつなぐ仕事をしていたが、みずから「ものづくり」をするデザイナーでもあった。でも小池さんはあくまで人と人、人と企業や美術館をつなげて新しい価値を生み出すことに徹した。いわば才能と才能との触媒。それが「中間子」の意味であり、役割でもあるだろう。

後半の「佐賀町」とはいうまでもなく、日本では稀なオルタナティブ・スペースとして1983年に誕生した佐賀町エキジビット・スペースのこと。小池さんが主宰したこの特徴あるスペースで、2000年までの17年間に106の展覧会やパフォーマンスを実現させた。今回はそのうち、吉澤美香、大竹伸朗、横尾忠則、シュウゾウ・アヅチ・ガリバー、杉本博司、森村泰昌ら約20人による当時の作品を展示している。しかし考えてみれば、小池一子の名を冠した展覧会なのに、本人の「作品」はなく、20人ものアーティストの作品が並ぶのは、変といえば変。だが、ここに小池さんの「中間子」たるゆえんがある。彼らアーティストは小池さんがいなければ(佐賀町がなければ)現在の地位を築けなかったかもしれないし、これらの作品も日の目を見なかったかもしれないのだ。裏返せば、これらの作品もアーティストも小池さんの「作品」なのだ。といってみたい欲望に駆られるが、そこまではいわないでおこう(もういっちゃったけど)。

ちなみに後半の「佐賀町」の展示スペースは、前半の「中間子」の倍くらいある。現代美術だからポスターより幅をとるのは当然だし、また、小池さんの興味が広告デザインから徐々にアートへと重心を移しているように感じられるので納得だが、そうでなくても「佐賀町」が同展のメインディッシュであることは間違いない。それはタイトルの「オルタナティブ!」からも明らかなように、企画したのが美術館でもギャラリーでもない、佐賀町のオルタナティブ精神を受け継ぐ3331であるからだ。

2022/01/21(金)(村田真)

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