artscapeレビュー
小谷元彦展 Hollow
2010年02月01日号
会期:2009/12/17~2010/03/28
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
小谷元彦の新作展。展覧会のタイトルにもなっている《Hollow》シリーズなど、10点が発表された。人体を構成する鋭角上の突起物が天に逆上していくような形態と白で統一した色彩によって、彫刻らしからぬ浮遊感を醸し出すのが特徴だが、ここには重力にもとづいた彫刻というジャンルへの反逆的な態度が貫かれている。反重力という志向性は、たしかに21世紀的であり今日的なモチーフなのだろう。けれども肉眼で作品を見た実感でいえば、どうにもこうにも粗雑な仕上がりが目について仕方がない。表面の処理が甘いからなのか、曲線が有機的に描き出されていないからなのか、フォトジェニックな魅力とは裏腹に、いくら実物を見ても視線の快楽が満たされることがないのである。そうした視線の寄る辺なさこそ、あるいは反重力的な彫刻を見るという矛盾した経験を如実に物語っているのかもしれない。しかし、究極的には、私たちは肉眼で鑑賞するほかなく、つまり「重力の圏内」から逃れられない以上、重力に規定された視線に耐えうる造形物をつくりだす必要があるのではないだろうか。重力と反重力のせめぎあいをよりいっそう極限化する余地が残されているように思えてならない。
2010/01/07(木)(福住廉)