artscapeレビュー
日常/場違い
2010年02月01日号
会期:2009/12/16~2010/01/23
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
雨宮庸介、泉太郎、木村太陽、久保田弘成、佐藤恵子、藤堂良門によるグループ展。わかるようでわからない展覧会のタイトルはさておき、それぞれ堅実な作品を発表していた。飛びぬけていたのは、泉太郎。旧作と新作の映像など10点あまりの作品を一挙に発表した。新作の《さわれない山びこのながめ》は、泉が作った出鱈目なオブジェを街の人びとに見せて何に見えるかを問い、彼らが応える声だけを頼りにボランティア諸君がオブジェを作り、それをまた街の人びとに見せて、さらにまたボランティア諸君が作るという連想ゲームのようなプロジェクトの経過を写し出す映像と、実物のオブジェ。美術妙論家・池田シゲルによる解説文「やまびこと転倒」もあわせて発表された。近年、泉が熱心に取り組んでいる無数のビデオカメラの映像と鏡を重ね合わせてイメージを錯乱させるシリーズでは、モニターの画面上に鏡の断片を直接貼りつけて乱反射の度合いを倍増させるなど、新たな展開を見せていた。先の「ヨコハマ国際映像祭」では野毛山動物園のシロクマの檻を存分に使い切った見事な空間インスタレーションを発表していたが、泉の強みはどんなクセのある空間でもその場の特性をいかしながら遊べる柔軟性にある。それにたいして、十分な空間を与えられることによってはじめて本領を発揮できるタイプが、久保田弘成だ。館内の展示とは別に、久保田の代名詞ともいえる演歌を流しながら自動車を回転させるパフォーマンスが屋外で何度か実演されたが、それが同館の脇のじつに狭いスペースで催されていたため、その迫力が半減していたばかりか、なんとも窮屈な印象を与えてしまっていた。海外ではいずれも広々とした空間で行なわれていたように、このパフォーマンスは広い空と大きな土地という環境があってはじめて、回転する自動車の侘しさや滑稽さが際立つものである。目前に山下公園という絶好の場所が広がっているにもかかわらず、その使用がかなわないところに、日本で芸術表現を志す者にとっての大きな不幸がある。
2010/01/17(日)(福住廉)