artscapeレビュー
小村雪岱とその時代
2010年02月01日号
会期:2009/12/15~2010/02/14
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
大正の後半から昭和の戦前にかけて活躍した小村雪岱の回顧展。日本画をはじめ、本や雑誌の挿絵や装丁、舞台美術、着物の図案など、雪岱の幅広い画業を総合的に振り返る構成で、また竹久夢二や鏑木清方、河野通勢、木村荘八といった同時代人たちの作品もあわせて見せることで展示に厚みをもたらしていた。雪岱といえば、地面にしゃがみこんだ少女の丸みを帯びた身体表現や無個性といわれるほど表情に乏しい顔が特徴だが、今回改めて思い知ったのは空間処理の巧みさ。子母澤寛による「鐵火江戸侍」の挿絵では極端に縦長の紙をいかしながら屋敷の内部を描写しているし、邦枝完二の「おせん」や矢田挿雲の「忠臣蔵」の挿絵を見ると、余白の白と墨で塗りつぶした黒の鮮烈なコントラストがじつに美しい。モノクロームと描線で物語世界を描き出すという点でいえば、雪岱の絵は挿絵というよりむしろ現代のマンガ表現に近い気がした。宮川曼魚による「月夜の三馬」の挿絵に見られる無音空間は、榎本俊二や横山裕一に継承されているのではないか。
2010/01/16(土)(福住廉)