artscapeレビュー

青年団『カガクするココロ』

2010年02月01日号

会期:2009/12/26~2010/01/26

こまばアゴラ劇場[東京都]

猿を人間に進化させるプロジェクト、そこで活動する大学院生と大学生が織りなす舞台。本作は、演劇と科学の融合を模索している平田オリザの原点だという。それはともかく、ぼくは平田らしい脚本の妙にあらためてすっかり魅了された。主たる登場人物は、男女の学生たちが十人ほど。それぞれは恋人同士だったり、片思いしたりされたり、先輩後輩の距離なども含め、人間関係の複雑な網目模様がとても丁寧に描かれる。そんなデリケートなバランスが演劇的な面白さを豊かに発揮するのは、誰かが誰かに発したささいな一言が別の誰か、そのまた別の誰かに思いがけない反響を引き起こす瞬間だ。しかも、その反響を感じるのが役柄(別の誰かやそのまた別の誰か)より先に観客であったりするときがあって、例えば、離婚経験者の院生の前で「別れ」という言葉を不用意に学部生が発してしまうとき、学部生が言いたかった文脈とは別に、院生はその言葉をどう受けとるのかと観客は推察する(というよりも精確には脚本の力によって推察させられる)。リアクションを待つ1秒もない瞬間に生じるスリルとサスペンス。演出方法に力点が置かれている昨今の演劇界のなかで、脚本の力というものを感じることのできた上演だった。

2010/1/10(日)

2010年02月01日号の
artscapeレビュー