2019年12月01日号
次回12月16日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

BankART AIR 2019 オープンスタジオ

会期:2019/05/31~2019/06/09

BankART Station、 BankART SILK[神奈川県]

みなとみらい線の新高島駅に直結するBankARTの新スペースBankART Stationと、関内のシルクセンター1階にオープンしたBankART SILKの2カ所をアーティストたちに活動の場として提供、計31組60人以上が2カ月間制作し、その成果を見せている。BankART Stationのほうは人工光に照らし出された新しい地下空間、BankART SILKのほうは坂倉準三設計のモダンなオフィス空間で、どちらも古い倉庫を利用したBankART Studio NYKのような強固なたたずまいはなく、制作のとっかかりが少なそうな雰囲気。そんなわけで、この場所自体を主題にしたり、空間そのものから発想した作品は少ない。

おもしろかったのは、この地下空間から地上にはい出て、更地に1坪程度の白い小屋を建て、内部を真っ黒に塗って四方の壁に小さな穴を開けたカメラ・オブスクラをつくった細淵太麻紀のプラン。カメラ・オブスクラ自体は珍しいものではないが、照明を消せば真っ暗な地下のスタジオを出て日光の下でわざわざブラックボックスをこしらえるというのは、ある意味コミカルなリプレイスメント・プロジェクトと捉えることもできる。ということは逆に、BankART Stationの空間自体を巨大なカメラ・オブスクラに見立てることも可能かもしれないという思考実験でもあるはずだ。

で、実際に中に入れてもらった。まずは地上に出て、日産、資生堂、京急などのビルを横目に見ながら1ヘクタールはあろうかという雑草の生い茂る更地に入り、ブラックボックスの中へ(こうしたプロセスが重要だ)。内部は完全な闇で、ピンホールを開けると反対側の壁に倒立像が映る……はずだが、小雨で光量が少ないせいかすぐには映らず、2、3分してようやくうっすら光が見え始める程度。全体像が浮かび上がるには(つまり目が闇に慣れるまで)5分以上かかった。撮影するときも相当の時間がかかるそうだ。ピンホールは4面の壁にひとつずつ開けられているので、四方向すべてを撮影することができる(ただし開けるのはひとつずつ)。

闇の中でふと思い出したのは、元ひきこもりのアーティスト渡辺篤が、光を閉ざした箱に1週間ほど閉じこもったこと。この小屋に閉じこもって倒立した世界を見ていたら、どんなひきこもり人間が生まれるだろう。

2019/06/07(金)(村田真)

プロジェクト#04 利部志穂 Piazza del Paradiso

会期:2019/05/11~2019/06/09

アズマテイプロジェクト[神奈川県]

ぼくのアトリエから徒歩5分ほど、イセザキモールに面した伊勢佐木町センタービルの3階に、今年初めアートスペースがオープンした。横浜の繁華街には、3階建てで1階が商店という戦後まもない時期のビルがまだ残っているが、ここもそのひとつ。階段を昇ると、エッシャーを思わせる歪んだ階段が現出したり、いまどき珍しいレアな看板やポスターが貼られていたりして、昭和レトロな雰囲気を濃厚に漂わせている。その3階の奥のなぜかロフト付きの部屋と、元は印刷所だったという壁がボロボロの一室がアズマテイプロジェクトだ。

ここは名前から察せられるように、東亭順を代表とする4人のアーティストらが立ち上げた「創造的実験場」。その最初のチラシには、「貸しスペースでもなく、作品売買を目的としているわけでもなく、若手美術家を支援するつもりもなく、支援を受けて町興しに協力するわけでもなく、純粋にいま我々が観たいものを観せてもらい、我々が見せたいものを見せ、聴きたいものを聴き、会いたい人に会う機会の場として運営していく」とある。つまり社会的な義務や責任を負わず、誰からも文句をいわせず、自分たちがやりたいことをやっていくという宣言だ。これはいまの窮屈な世の中である意味とても賢い選択だと思う。大変だけどね。

今回4回目の企画展は利部志穂。天井から針金でモノを吊るしたり、床に廃材を老いたり、壁に絵を掛けたり、詩のような文章を掲げたり、この場の空気に反応したインスタレーションを見せている。2年間イタリアに滞在していたそうで、タイトルはイタリア語で「天国の広場」という意味。

2019/06/01(土)(村田真)

「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」記者発表会

会期:2019/05/27

東京国際フォーラムD7[東京都]

この秋、森アーツセンターギャラリーで予定されている「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」の記者発表会。初めにフジテレビジョン・イベント事業局長の宇津井隆氏があいさつ。「バスキア展」をやるきっかけは2000年頃、とんねるずの木梨憲武に「いまバスキアが大変なことになっている」と言われたからだそうだ。ノリさんだけに、テレビ業界っぽいノリだなあ。確かにバスキアの亡くなった1988年前後は画家としての評価はあまり芳しくなかったが、シュナーベルの監督した映画「バスキア」が公開された1990年代後半から再評価の気運が高まってきたのは事実。近年は前澤友作氏が62億円、123億円と立て続けに高額で落札したり、パリのルイ・ヴィトン財団美術館で回顧展が開かれたり(同時開催していたのは同じく満28歳で亡くなったエゴン・シーレ展)、話題にこと欠かなかった。

で、今回は「メイド・イン・ジャパン」というタイトル。作品が日本でつくられたからではなく、バスキアが勢いのあった80年代の日本に憧れ、何度か来日していたからであり、画面に「MADE IN JAPAN」と描かれた作品が出品されるからであり、また、意外と日本の公立美術館がたくさん持っているからでもある。つまり評価の低かった1990年前後のバブル期に日本が買っていたのだ。出品数は約130点。中身はともかく、点数ではルイ・ヴィトンに引けをとらない。

会期:2019年9月21日(土)〜11月17日(日)

2019/05/27(月)(村田真)

トム・サックス ティーセレモニー

会期:2019/04/20~2019/06/23

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

アメリカを巡回したトム・サックスの日本巡回展。「ティーセレモニー」は「茶道」のことで、ニューヨークのイサムノグチ美術館のために制作されたもの。トムは2012年から本格的に茶道を学んでいるそうだ。だから作者自身も日本への巡回を切望していたという。ちなみに、10年ほど前にアメリカで盛んに行なわれた保守派による「ティーパーティー」運動への批判もあるのかと思ったが、それはないみたい。

出品は大小合わせて50点近くで、平面も立体も人工的でチープな素材を使って茶の湯の世界を再構築している。エアバッグの生地の掛軸に赤地に黄色で「M」と書いた《McDonald's》、10段ほどの棚に100個ほどの茶碗が整然と並ぶ《Large Chawan Cabinet》、合板や樹脂、既製品などを組み合わせた《Tea House》、それに隣接する《Mizuya》など。等間隔に小さな穴の空いた合板を立てただけの《Tadao Ando Wall》には笑った。マジメなのかふざけているのか、おそらくマジメにふざけているのだろう。こういう脱力系のユーモアはいかにもイギリス的だが、トムはニューヨーカー。でも経歴を見るとロンドンの建築学校で学んだことがあるそうだ。納得。

2019/05/21(火)(村田真)

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大山エンリコイサム個展「VIRAL」

会期:2019/05/18~2019/11/17

中村キース・ヘリング美術館[山梨県]

ニューヨークを拠点に活動する大山が、箱根のポーラ美術館に続いて、小淵沢の中村キース・ヘリング美術館でも個展を開いている。二つの美術館で個展を同時開催ってスゴイんだけど、どうしてわざわざ不便な場所でやるの?
 てか、どうして不便な場所に招かれるんだろう? 
彼の作品は田舎より都市空間でこそ映えるのに。でもまあ、どちらもリゾート地だから、つい行ってみたくなるけどね。

キース・ヘリング美術館が大山を招いたのは、もちろん彼がグラフィティをベースにした作品を制作しているから。タイトルの「VIRAL」とは「ウイルスの」という意味で、グラフィティがウイルスのように社会に浸透したこと、キース・ヘリングはエイズウイルスに感染して亡くなったが、彼のアートは世界中に拡散したことなどの意味を込めているそうだ。

大山がグラフィティで注目したのは、腕のストロークを生かしたライティング。その運動の要素を抽出して再構築したのが、「クイックターン・ストラクチャー」と名づけたモチーフだ。今回は、このクイックターン・ストラクチャーを中心にした絵画10数点を展示している。
クイックターン・ストラクチャーは白黒の陰影(?) をつけた帯がジグザグに交差し、複雑に入り組んだもの。単純な要素が複雑に絡み合い、平面的なのに立体的にも見え、記号(書)のようでありながらイメージ(絵)を喚起し、表現主義的とも幾何学的ともいえる、実に明快かつ曖昧な性格を備えているのだ。特にストローク・ペインティングの上にクイックターン・ストラクチャーを載せた《FFIGURATI#184》は、20世紀絵画の主要な成果を1枚に凝縮したような問題作。色がないのが寂しい気もするが、それさえ主要な関心事以外の余計な要素を排除したモダニズムのストイックさを彷彿させる。


この日は屋外の中庭(ミュージアムシアター)で公開制作が行なわれた。岡本太郎や横尾忠則と違ってハデなパフォーマンスを好まない大山が公開制作を行なうのには、それなりの理由があるのだろう。まず白い大きなキャンバスの前に立ち、画面の中央に腕のストロークを利かせて大きな円を描く。ほぼ正円に近い円で、飛沫や滴りもいい具合につき、これだけだと円相図だ。ハッとしたのは、円を描き終わったとき、腕の動きにつられて大山の身体が正面を向いたこと。つまり一瞬、作者が画面に背を向け、観客に向き合ったのだ。別にそこに意味をこじつけるつもりはないけど、なにかとても新鮮な気分だった。

2019/05/18(土)(村田真)

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