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artscapeレビュー

蔡國強 宇宙遊 ─<原初火球>から始まる

2023年08月01日号

会期:2023/06/29~2023/08/21

国立新美術館[東京都]

会場に入ると、仮設壁が取り払われて広大な展示室の向こうまで一望できる。こんな使い方は初めてじゃないかしら。作品は壁に沿って時計と反対周りにほぼ時系列に並び、中央には屏風絵やネオンによるキネティック・ライト・インスタレーションが置かれ、とてもにぎやかだ。

タイトルの「原初火球」とは宇宙の始まりを告げる大爆発=ビッグバンのことで、日本で最初に開いた個展のタイトルでもあった。つまり「〈原初火球〉から始まる」と題したこの展覧会は、中国を出て日本でデビューし、ニューヨークに移住して世界に活動の場を広げていった蔡の原点ともいうべき「原初火球」展を軸に構成されているのだ。それは、各章立てが「〈原初火球〉以前」「ビッグバン:〈原初火球:The Project for Projects〉」「〈原初火球〉以後」「〈原初火球〉の精神はいまだ健在か?」とされていることからも明らかだろう。日本で回顧展を開くなら、自分をデビューさせてくれた日本および「原初火球」展を軸に構成したいという蔡の義理堅さが伝わってくる。

同展に先立ち、いわきの海岸で「満天の桜が咲く日」と題する花火イベントを実現させたのも、その記録映像を含めて展示室裏の休憩室のスペースで「蔡國強といわき」と題した特集展示を行なっているのも、日本滞在中にお世話になったいわき市民に対する恩返しの意味があるだろう。カタログのなかで蔡は「一人のアーティストの成長とは、故郷であれ異郷であれ、なんと多くの人々の支援の上に成り立っていることだろう」と書いている。この1行だけでもアーティストとしての揺るぎない自信と、支えてくれた人たちへの感謝の念が伝わってくる。

さて、最初の展示は、来日以前に制作した絵画や火薬を使った作品のほか、父がマッチ箱に描いたドローイングもあり、かなり文化度の高い家庭に育ったことがうかがえる。火薬は早くから作品に使用していたが、それは中国人が発明した三大発明のひとつだからであり、使い方ひとつで善にも悪にも転じる両義的な存在だからであり、また、初期のころから美術の枠にとらわれない自由な発想を持っていた蔡にはうってつけの素材だったからでもあるだろう。

1986年に来日。滞日中の最大の成果が1991年に開いた「原初火球」展だ。これは「プロジェクトのためのプロジェクト」と銘打たれているように、彼が構想していたプロジェクトのうち7つを選んで火薬を使って描き、屏風に仕立てて放射状に並べたもの。このうち「大脚印」「ベルリンの壁を再現する」「烽火台を再燃する」などは「外星人のためのプロジェクト」と称し、火薬を爆発させることで地球外からも観測できる壮大なプロジェクトだった。

その後も「外星人のためのプロジェクト」は増えていくが、そのなかで実現したものに「万里の長城を1万メートル延長する」、「天地悠々」、「地球にもブラックホールがある」などがある。「万里の長城を1万メートル延長する」は1993年、長城の西端からゴビ砂漠に1万メートルの導火線を引いて爆発させ、瞬間的に長城を延長させた。「天地悠々」は1991年に福岡で、「地球にもブラックホールがある」は1994年に広島で、それぞれ実現している。また「大脚印」は「歴史の足跡」に名を変えて、2008年の北京オリンピック開会式で火薬による巨大な足跡が出現したことは、多くの人の記憶に焼きついているはずだ。展示室奥の壁に貼り出されている33メートルにおよぶ作品は、この「歴史の足跡」のためのドローイングだ。

その手前にあるアインシュタイン、UFO、宇宙人、惑星などの輪郭に沿ってネオンがさまざまな色に変化するキネティック・ライト・インスタレーションは、2019年にメキシコ・チョルーラ市の屋外で、2021年には上海の美術館で公開された《未知との遭遇》という作品。これは初めて見た。最終章で蔡は、AI、VR、NFTなどの最新技術を採り入れた作品を試みているが、彼の真骨頂がこれからも仮想現実ではなく、現実に火薬を爆発させることにあり続けるのは間違いない。いや間違っても爆発はVRで済ませようなんて思うなよ。



蔡國強《未知との遭遇》展示風景[筆者撮影]


公式サイト:https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/cai/

2023/06/28(水)(村田真)

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