2019年11月01日号
次回11月15日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

トム・サックス ティーセレモニー

会期:2019/04/20~2019/06/23

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

アメリカを巡回したトム・サックスの日本巡回展。「ティーセレモニー」は「茶道」のことで、ニューヨークのイサムノグチ美術館のために制作されたもの。トムは2012年から本格的に茶道を学んでいるそうだ。だから作者自身も日本への巡回を切望していたという。ちなみに、10年ほど前にアメリカで盛んに行なわれた保守派による「ティーパーティー」運動への批判もあるのかと思ったが、それはないみたい。

出品は大小合わせて50点近くで、平面も立体も人工的でチープな素材を使って茶の湯の世界を再構築している。エアバッグの生地の掛軸に赤地に黄色で「M」と書いた《McDonald's》、10段ほどの棚に100個ほどの茶碗が整然と並ぶ《Large Chawan Cabinet》、合板や樹脂、既製品などを組み合わせた《Tea House》、それに隣接する《Mizuya》など。等間隔に小さな穴の空いた合板を立てただけの《Tadao Ando Wall》には笑った。マジメなのかふざけているのか、おそらくマジメにふざけているのだろう。こういう脱力系のユーモアはいかにもイギリス的だが、トムはニューヨーカー。でも経歴を見るとロンドンの建築学校で学んだことがあるそうだ。納得。

2019/05/21(火)(村田真)

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大山エンリコイサム個展「VIRAL」

会期:2019/05/18~2019/11/17

中村キース・ヘリング美術館[山梨県]

ニューヨークを拠点に活動する大山が、箱根のポーラ美術館に続いて、小淵沢の中村キース・ヘリング美術館でも個展を開いている。二つの美術館で個展を同時開催ってスゴイんだけど、どうしてわざわざ不便な場所でやるの?
 てか、どうして不便な場所に招かれるんだろう? 
彼の作品は田舎より都市空間でこそ映えるのに。でもまあ、どちらもリゾート地だから、つい行ってみたくなるけどね。

キース・ヘリング美術館が大山を招いたのは、もちろん彼がグラフィティをベースにした作品を制作しているから。タイトルの「VIRAL」とは「ウイルスの」という意味で、グラフィティがウイルスのように社会に浸透したこと、キース・ヘリングはエイズウイルスに感染して亡くなったが、彼のアートは世界中に拡散したことなどの意味を込めているそうだ。

大山がグラフィティで注目したのは、腕のストロークを生かしたライティング。その運動の要素を抽出して再構築したのが、「クイックターン・ストラクチャー」と名づけたモチーフだ。今回は、このクイックターン・ストラクチャーを中心にした絵画10数点を展示している。
クイックターン・ストラクチャーは白黒の陰影(?) をつけた帯がジグザグに交差し、複雑に入り組んだもの。単純な要素が複雑に絡み合い、平面的なのに立体的にも見え、記号(書)のようでありながらイメージ(絵)を喚起し、表現主義的とも幾何学的ともいえる、実に明快かつ曖昧な性格を備えているのだ。特にストローク・ペインティングの上にクイックターン・ストラクチャーを載せた《FFIGURATI#184》は、20世紀絵画の主要な成果を1枚に凝縮したような問題作。色がないのが寂しい気もするが、それさえ主要な関心事以外の余計な要素を排除したモダニズムのストイックさを彷彿させる。


この日は屋外の中庭(ミュージアムシアター)で公開制作が行なわれた。岡本太郎や横尾忠則と違ってハデなパフォーマンスを好まない大山が公開制作を行なうのには、それなりの理由があるのだろう。まず白い大きなキャンバスの前に立ち、画面の中央に腕のストロークを利かせて大きな円を描く。ほぼ正円に近い円で、飛沫や滴りもいい具合につき、これだけだと円相図だ。ハッとしたのは、円を描き終わったとき、腕の動きにつられて大山の身体が正面を向いたこと。つまり一瞬、作者が画面に背を向け、観客に向き合ったのだ。別にそこに意味をこじつけるつもりはないけど、なにかとても新鮮な気分だった。

2019/05/18(土)(村田真)

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横浜開港160年 横浜浮世絵

会期:2019/04/27~2019/06/23

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

幕末から明治初期にかけて、西暦でいえば1850年代末から1880年ごろまでの20年あまりのあいだに横浜で描かれた浮世絵を公開している。出品は、浮世絵コレクターとして知られる丹波恒夫と斎藤文夫が集めた計330点にも及ぶ(前期と後期で総入れ替えするので半分しか見ていない)。失われたものも相当あるはずだから、いったいどれだけ描かれたのか。浮世絵は1点ものの絵画と違って売れてなんぼの商売なので、次々と新しいモチーフを発掘して作品化しなければならない。その点、幕末の横浜は黒船来航から開港、異人さんの姿、洋館、鉄道まで目新しいモチーフにこと欠かなかったので、次々と出版することができたのだろう。横浜市史にとっての浮世絵も重要だが、近代浮世絵史における横浜の重要性についても再考する必要がありそうだ。

興味深い作品がいくつかあった。「横浜売物図絵」シリーズには、海を渡ってきた西洋画らしき画中画が描かれているが、どう見ても浮世絵。そりゃ、西洋画を浮世絵で描けといわれても西洋画にはならず、浮世絵になってしまうわな。また横浜ではなく、亜墨利加、英吉利、仏蘭西など西洋の都市風景を描いた絵もある。おそらく銅版画かなにかを参照したのだろう、稚拙ながら遠近法も試みているところがいじらしい。

ずっと見ていくと、野毛、馬車道、海岸通、吉田橋などなじみのある地名が出てきて、だいたいどこを描いているか推測できるが、現在も残っている建築がひとつもないことに気づく。あえて強調するが、開港からたった160年しか経っていないのに、ひとつも残っていないのだ。横浜は神奈川県本庁舎や開港記念会館といった歴史的建造物が残っているのが自慢だが、それとて関東大震災後に建てられたもので、まだ100年もたっていない。吹けば飛ぶような歴史の浅さ……。それだけになおさら、こうした紙媒体の記録は重要度を帯びていくに違いない。

2019/05/17(金)(村田真)

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The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project

会期:2019/04/13~2019/07/28

原美術館[東京都]

その名を耳(目でもいい)にするのは久しぶりのアーティスト、崔在銀(チェ・ジェウン)の発案・構成による展覧会。朝鮮半島を南北に二分する非武装地帯(DMZ)を舞台に、何ができるか、何をすべきか。崔が李禹煥、オラファー・エリアソン、川俣正、イ・ブル、坂茂、スタジオ・ムンバイといったアーティストや建築家に声をかけ、自由に発想してもらったプランを紹介している。DMZは停戦ラインの南北2キロずつ立ち入り禁止の緩衝地帯になっており、300万個ともいわれる地雷が埋められていることもあって、100種を超える絶滅危惧種をはじめ5000種以上の生物が育まれているという。

崔は不要になった鉄条網を溶かして鉄板にし、飛び石状に並べてその上を歩いて行けるようにした。川俣は「ネスト(巣)」シリーズの延長で崖の上に木材を組んで鳥の巣状の展望台をつくり、坂は地雷に触れないように竹で遊歩道を渡して歩くプラン。どっちかというと海外のアーティストが自然科学的アプローチでプランを考えているのに対し、日本人はDMZを観光資源として捉えて提案していて、その違いはどこから来るんだろう。福島県の帰還困難区域で行なわれている「Don't Follow the Wind」にも似た「未完のプロジェクト」。

2019/05/15(水)(村田真)

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荒木悠「LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」

会期:2019/04/03~2019/06/23

資生堂ギャラリー[東京都]

作品は全部で10点ほど出ているが、メインは《The Last Ball》という映像。ピエール・ロティの紀行文「江戸の舞踏会」を下敷きにした芥川龍之介の短編小説『舞踏会』に基づくという。スクリーンは壁面と宙づりの2面あるが、宙づりのスクリーンは表裏に映されるので計3面になる。まず壁面を見ると、西洋人の男性(ロティ)と日本人の女性(明子)がワルツを踊っているように見えるが、よく見ると2人はお互いに追いかけながらiPhoneで相手を撮っているようだ。宙づりスクリーンの片面には女性を撮っている男性が、もう一面には男性を撮っている女性が、それぞれiPhoneをこちらに向けながら逃げ回るように映っている。見る(撮る)者が見られ(撮られ)、見られる(撮られる)者が見る(撮る)。これがロティ(および明子)の視線だとすれば、それを見る(撮る)第三者の視線は芥川の視線に重なるだろうか。非常に重層した構造をもった作品。

2019/05/10(金)(村田真)

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