artscapeレビュー
アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国
2017年06月15日号
会期:2017/04/29~2017/06/18
東京ステーションギャラリー[東京都]
ヘンリー・ダーガーと並ぶアウトサイダーアートの代表的画家。ダーガーが15,000ページを超す『非現実の王国で』を残したとすれば、ヴェルフリは25,000ページを超す作品を描いた。しかも余白を残さず画面を絵と記号で埋め尽くす密度の濃さ。この二人、貧しい家に生まれ、両親と早く離別(死別)するという共通点があるが、違うのは、ダーガーが10代から働きながら約60年間ひとり黙々と創作を続けたのに対し、ヴェルフリは31歳で精神科病院に入れられ、そこで絵を描き始め、以後30年にわたって描き続けたこと。その絵は女陰を思わせる紡錘形、円、格子縞、アルファベットや数字や音符などの記号、人の顔などがほぼ左右対称に新聞用紙の画面を埋め尽くすという、アウトサイダー・アートの典型を示している。初期には色がなかったり、後期には写真コラージュを用いるなど多少の変化は見られるものの、基本的なスタイルが生涯ほとんど変わらないのも特徴だ。余談だが、カタログをながめていたら、《偉大なる=王女殿下、偉大な=父なる=神=フローラ》と題する1枚に、ダーガーそっくりの少女像の写しがあった。もちろん彼はダーガーのことなど知るよしもない。
ヴェルフリといえば、かつて種村季弘あたりがゾンネンシュターンなどとともに「異端の芸術家」として紹介していたような記憶があるが、近年の評価の急上昇は驚くばかり。特にヴェルフリの故国では「スイスが生んだ偉大な芸術家」として美術史にその名が刻まれているという。なにせスイス連邦鉄道には彼の名を冠した「アドルフ・ヴェルフリ号」が走っているというから、日本なら新幹線に「山下清号」と命名するようなもんだ。そこまでやるか。
2017/05/03(水)(村田真)