artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
BODY/PLAY/POLITICS
会期:2016/10/01~2016/12/14
横浜美術館[神奈川県]
まず、日本人が企画し、日本でやる展覧会なのに、なぜタイトルをアルファベット表記にするのか理解できない。これだけで来館者は減ると思う。でも「ボディ/プレイ/ポリティクス」というカタカナ表記もなんだか間が抜けてるし。結局タイトルがよくないって話だ。展示はひとりほぼ1室を使い、余裕たっぷりに見られてよかった。ただし中身がよくない。インカ・ショニバレは美しい立体と映像を出しているが、解説がなければ理解できないし、理解したところで遠すぎて響いてこない。アピチャッポン・ウィーラセタクンはさすがに美しい映像を見せているが、解説を読むと語るに落ちる。最後のふたりは日本人で、特に石川竜一がおもしろかった。石川は名前は聞いたことがあるくらいで、ちゃんと作品を見るのは初めて。特に感動したのは《小さいおじさん》と《グッピー》で、文字どおり背の小さなおじ(い)さんとハデな化粧のおば(あ)さんとつきあい、彼らの生活に分け入って撮影したシリーズだ。ふたりとも世間的にいえばちょっと外れた異形の人、いわばアウトサイダー。展示も内容に沿っていて、壁をそれぞれ緑と赤に塗りつぶして写真を並べ、余白に石川の直筆でふたりのエピソードを書いている。このコーナー全体がアウトサイダーアートになっているのだ。いやーこれだけで満足した。
2016/09/27(金)(村田真)
原游「山水 SAN-SUI」
会期:2016/09/16~2016/09/28
市原湖畔美術館[千葉県]
美術館の展示室ではなく、多目的ホールと情報ラウンジを使った個展。壁の仕様も広さも展示室にはかなわないが、空きスペースを若手作家の発表の場に提供する試みは評価したい。ただし見に行くのが大変だけどね。原は新作を中心に30点以上出している。いくつかに分類すると、まず、チラシやネットなどから拾い集めた図像をキャンバス上に再構成し、油彩で描いたシリーズ。このとき再構成したものがひとつの人物像に見えるなど、部分の集合が別の全体像を生み出している。《Rolling Moon》や《SAN-SUI》などだ。次に、紙の表裏に別の絵を描いてあれこれ折り曲げ、表裏の画像を同時に見せる「谷折ドローイング」シリーズ。これはトポロジカルな発想で、ある種のワープ感や予期せぬ偶然の出会いを感じることができる。もうひとつ、キャンバスの一辺だけ布を長くしてうしろに折り曲げ、犬の耳のように垂らしたり、布をほどいて髪の毛状にしたりするシリーズ。《泉(ネコ)》と《泉(女の子)》、一連の《にこにこ飛行》などがそれだ。これは彼女が絵画というものを単なる平面としてではなく、ひとつの物体として捉えている証だろう。部分と全体、裏と表、平面と物体──いずれも絵画の根本原理を問い直す作業といえる。もっと重要なことは、それを眉間にシワを寄せてシリアスに取り組むのではなく、ポップに楽しくやってることだ。なぜそれが重要かといえば、そのほうが見ていて楽しいからに決まっている。
2016/09/27(火)(村田真)
銭湯絵師 丸山清人個展
会期:2016/09/22~2016/10/02
ギャラリービブリオ[東京都]
いまや風前の灯の銭湯のペンキ絵。大学を出て銭湯絵師の下に弟子入りした人もいるにはいるが、銭湯そのものが絶滅寸前だから生き残り策を考えなければならない。希望者の風呂場に赴いて描く出張ペインティングというテもあるが、より現実的なのはペンキ絵を縮小して商品として売ることだ。国立のギャラリービブリオは1軒屋の畳部屋を改装したもので、現役最年長の丸山清人がボードに油性ペンキで描いた富士山の絵を30点余り並べている。奥には大作が2点あって、1点は昨日ライブペインティングで描いたものだそうだ。30×40センチほどのサイズが1点18,000円で、見たところザッと半数が売れている。悪くないではないか。
2016/09/26(月)(村田真)
ヘリ・ドノ展「HERIDONOLOGY」
会期:2016/09/12~2016/10/22
ミヅマアートギャラリー[東京都]
ヘリ・ドノはインドネシアを代表するアーティスト。日本で東南アジアの現代美術が話題になり始めた90年代初頭から、インドネシアの伝統的な影絵芝居ワヤン・クリを現代風にアレンジする作家として名前を聞いていた。なにしろアピチャッポン・ウィーラセタクンとは違って名前が覚えやすいからね。今回は絵画と動く彫刻の発表だが、伝統的な物語を描いたプリミティブな絵画は、顔がふたつあったり、目が3つも4つもあったり、鼻や舌の先に顔がついてたりする妖怪どもを勢いのある筆致で描いている。さすが腕達者、絵がうまいので驚いた。
2016/09/26(月)(村田真)
岡本光博 69
会期:2016/09/10~2016/10/08
eitoeiko[東京都]
某ヴィトン社のモノグラム入りのバッグでバッタをつくった《バッタもん》をはじめ、漫画「ワンピース」のキャラクター人形をつなげてワンピースに仕立てた《ワンピース・ワンピ》、奈良某の犬に軍帽を被せてガマグチにした《犬死》(村上某のDOB君を逆さまにした《BOD君》もある)、放射能汚染廃棄土を入れる黒いバッグに目玉をつけた《モレシャン》、福島県に山積みされているそのバッグに目玉をつけて撮影した《モレシャンズ》……。徹底して権威をこき下ろし、禁忌に挑戦している。しかもそれを嘲笑に変えている。これはアートのひとつの原点ですね。どこか彼の回顧展をやってみようという美術館はないだろうか。でもやったら最後、“自爆展”になりかねないが。
2016/09/24(土)(村田真)