artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

木々との対話 再生をめぐる5つの風景

会期:2016/07/26~2016/10/02

東京都美術館[東京都]

木を使うアーティスト5人を集めた企画展。今年は都美開館90周年、3.11から5年ということで「木と再生」をキーワードにしたというが、いかにもこじつけっぽい。まあ日本人および日本美術にとって木は身近な素材だし、普遍的なテーマではあるからね。まずエスカレーターで降りていくと、ギャラリーAの巨大空間に國安孝昌のどでかいインスタレーションが目に入ったので、そっちのほうへ行こうとしたら、おねえさんがギャラリーCに誘導してくれるので素直に従う。鹿や羊などの動物や麒麟、ユニコーンといった神獣を彫る土屋仁応の木彫が並ぶ。鹿の角や鳳凰の羽根1本1本を彫ったり、身体内部をくりぬいて表面を透かし彫りにしたり、高度な技術と丁寧な仕事ぶりには感心するが、木彫として興味を惹くものではない。続くフロアには田窪恭治の旧作が並ぶ。田窪は70年代からおよそ10年単位で大きく仕事を変えてきたが、ここではおもに廃材と金箔を使った80年代の作品を展示。その多くが各地の公立美術館にコレクションされているので驚いた。
で、いよいよ國安の番。小さな陶ブロックと木材を積み上げたインスタレーションで、いったい何千、何万個あるんだろう。30年近くほぼ同じ素材を使って、かたちや大きさを変えながらいろんな場所で続けている。圧倒的なスケール感だが、それだけにいざとなったら危険がアブナイのか、作品内部への道はついてるのに入れてくれなかった。その手前にブースを設けて展示しているのは須田悦弘。彼ももうかれこれ20年ほど植物彫刻を発表している中堅で、超絶技巧と展示場所に磨きがかかっている。今回はブース外にも3カ所設置されていて、それを探し歩く趣向だ。いちおう全部見つけた。奥のギャラリーBには、舟越桂の木彫が6点にドローイングが10点ほど。舟越もこの30年ほどのあいだに首が延びたり頭部がふたつに増えたり、人物からモンスター(?)へと徐々に彫るものが変化しつつ、でもひと目で舟越作品とわかる。ひとりマニエリスムか。この先どこまで変容するのか楽しみだ。

2016/09/06(火)(村田真)

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安藤栄作「約束の船・2016」

会期:2016/08/19~2016/09/25

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

帰りに奈良市内のギャラリーに寄ってみる。安藤栄作は福島県いわき市に住んでいたが、大震災により作品や家財を失っただけでなく、原発事故により移転を余儀なくされ、現在は奈良県に住んでいるという。展示はまず、ギャラリーの床にカヌーのような木の船が2隻。だが、どちらも片側が切れている。つまり2隻をつなげれば1隻の大きな船になりそうな感じ。壁には10~30センチ程度の木彫のヒトガタが数百、いや千はありそうなくらい貼りついている。ヒトガタといっても細長い紡錘形の上端が丸くなってるだけなので、かろうじて人のかたちであることがわかる程度。あるいは風化した円空仏か、包帯グルグル巻きのミイラか、羽化する前のサナギか、身体を切っても再生するプラナリアか。どれもアレゴリーとして悪くない。ほかにも脚のついたミミズや、髪の毛で立つ首像などもあって、けっこうオチャメ。

2016/09/04(日)(村田真)

古都祝奈良─時空を超えたアートの祭典─(ならまちアートプロジェクト)

会期:2016/09/03~2016/10/23

ならまち[奈良県]

一泊して「ならまちアートプロジェクト」を見て回る。「八社寺アートプロジェクト」がエスタブリッシュされたアーティストによるものだとすれば、昔ながらの町家が残る「ならまち」を舞台にしたこちらは、おもに奈良や京都出身の7人の若手アーティストを特集した展示。前者とは場所も予算の掛け方も違うが、そんななかでも注目したのは西尾美也と宮永愛子のふたり。西尾はならまちの住人から古着を集め、矩形に裁断してつなぎ合わせ、パッチワークの家をつくって集会場にした。外したボタンは糸でつないで神社に展示。これはプロセスもさることながら、視覚的に美しい。宮永は古い木造の染物屋倉庫で、地面に染み込んだ染料を布に写し取り天井に張ってみせた。着眼点もインスタレーションも見事だが、残念なのは地面に置かれた台車や樽の跡を白く残していること。地面に置かれた物と天井に張られた布が天地対称になってわかりやすいのだが、実際に写し取ればこうはならないので、トリックに見えてしまう。惜しい。


西尾美也《人間の家》(撮影=筆者)

2016/09/04(日)(村田真)

古都祝奈良─時空を超えたアートの祭典─(八社寺アートプロジェクト)

会期:2016/09/03~2016/10/23

東大寺+春日大社+興福寺+元興寺+大安寺+薬師寺+唐招提寺+西大寺[奈良県]

奈良市内の名だたる寺社に、アジアのアーティストがインスタレーションを展開するというので見に行った。当初これも2、3年に1度の芸術祭かと思っていたが、これは日中韓が進める東アジア文化都市の文化交流プロジェクトのひとつで、今年の開催都市・奈良市が繰り広げる1回限りの「時空を超えたアートの祭典」なのだ。アドバイザーを務めた北川フラム氏は、日中韓をはじめインド、イラン、シリア、トルコまで広くアジア圏のアーティストを集め、8つの寺社に作品を絡めている。最初に行ったのが、開会式の行なわれた大安寺。その塔跡隣地に川俣正が高さ20メートルを超す《足場の塔》を建てた。これは遠くからでも見え(そもそも奈良には高い建物が少ないので見晴らしがいい)、よく目立つ。しかしこのモニュメンタリティは川俣らしくないなあと思ったが、おおまかな骨組みはすでにつくられており、川俣はその周囲に足場を組むだけだったという。なるほど、本体のない足場だけの塔。やっぱり川俣らしい。
中国の蔡國強は先行して3月から木造船を制作、遣唐使船を思わせるこの船は、東アジア文化交流のシンボルとして東大寺の鏡池に浮かんでいる。韓国のキムスージャは元興寺の石舞台に鏡を張り、その上に漆黒に塗った楕円形のオブジェを立てた。おそらくブラックホールのような異次元への穴を想定したのだろうが、完璧な黒が得られず半端感は否めない。これを見て思い出したのがインド出身のアニッシュ・カプーア。彼はそれこそ完璧な黒い穴の作品で知られるが、光の99パーセント以上を吸収する黒い顔料のアートにおける独占使用権を買い取った、というニュースを聞いたことがあるからだ。キムスージャはこれを使いたかったに違いない。ちなみにカプーアは今回出ておらず、インドからは若手のシルパ・グプタが参加。カプーアはギャラが高いので声もかけなかったそうだ。そのグプタは薬師寺の広場に、頭部が家や雲のかたちをした輪郭だけの人間像を設置。これは記憶や思考を可視化した彫刻と捉えることもできるが、彼女の過去の作品や薬師寺の建築群の圧倒的な存在感に比べればものたりない。しかしそれを言い出せばきりがない。そもそも寺社に絡むといっても核心部に触れるものは少なく、裏の池とか境内の外とかちょっと外れた場所が多いのも事実。とはいえ20~30年前に比べれば、現代美術がよくぞここまで踏み込んだものだと感心する。


左=川俣正《足場の塔》
右=キムスージャ《演繹的なもの》
(いずれも撮影=筆者)

2016/09/03(土)(村田真)

篠山紀信展 快楽の館

会期:2016/09/03~2017/01/09

原美術館[東京都]

77点の出品作品はすべて撮り下ろしの新作で、しかもすべて原美術館で撮ったもの。しかもモデルはすべてヌード(あ、ひとりだけ正装してるのは原館長)。つまり原美術館のあっちこっちにヌードをはべらして撮影し、それを再び原美術館に帰す(展示する)という趣向だ。いってみれば、サイトスペシフィック写真インスタレーション。さらに、窓から庭を見れば木陰にその場で撮ったヌード写真が置かれているなど、トリッキーな仕掛けがあちこちに施されている。これは楽しい。写真展のオファーを受けたとき、「どうせならここで撮ったらどうかな?」と紀信。「いいよいいよ」と館長。「どうせならヌードはどうだろう?」と紀信。「いいよいいよ」と館長。このように話はトントン拍子に進んだそうだ。ヌードモデルは計33人、檀蜜もいるが、彼女だけ乳首と陰毛が見えないのが残念。

2016/09/02(金)(村田真)

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