artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

日吉台地下壕

[東京都]

この春、慶応のセンセーたちの飲み会で、日吉校舎の下にある地下壕の話題になって、毎月見学会が開かれているので見に行こうって話になった。見学会の主催は日吉台地下壕保存の会。この地下壕は第2次大戦末期の1944年9月から海軍連合艦隊司令部として使われ、特攻作戦や沖縄戦の命令はここから出されたという。次世代に伝えるべき戦争遺跡なのだ。参加者はわれわれ4、5人だけかと思ったら、なんと近所(たぶん)のじーちゃんばーちゃんを中心に50人ほど集まった。みんな関心が高いんだ。あいにくの雨のなか、慶応高校の横を通り、蝮谷体育館近くの鉄の扉を開けて地下壕に入る。最初は数十メートルの下り坂。洞窟みたいなワイルドな空間を想定していたが、床も壁も天井も(カマボコ型なので壁と天井の区別はないが)コンクリートで舗装?され、快適とはいえないまでもちゃんと整備されている。奥へ進むと機械室、電信室、司令長官室などがあるが、どれもカマボコ型のトンネルでドアも窓もないため見分けがつかない。内部には横道がたくさんあり、ひとりで入ったらさぞかし怖いだろうなあ。地上に出て、軍令部第3部(情報部)も使ったというチャペルや、巨大キノコみたいな耐弾式竪坑なども見学。戦争遺跡は身近に残っているのだ。

2016/09/24(土)(村田真)

後藤靖香展 モディリアーニの古釘

会期:2016/09/16~2016/10/02

六本木ヒルズA/Dギャラリー[東京都]

現代の「戦争画」を描く後藤が、藤田嗣治を中心とする画家たちの人間関係を墨一色でマンガチックに描いている。タイトルの「モディリアーニの古釘」は、藤田がパリの下積み時代にモディリアーニからお守りの古釘をもらったら、数年後モディリアーニは亡くなり、藤田は成功を収めたという逸話に由来する。第2次大戦中シンガポールにいた藤田が帰国するとき、ふと死の不安を感じたが、古釘を持っていなかったため、宮本三郎とともに飛行場でカニのようなポーズで古釘を探す場面を描いている。ほかにも小磯良平、鶴田吾郎、梅原龍三郎、松本竣介らが登場。それにしてもいま、30代の女子が戦争および戦争画に関心を抱くのはなぜだろう?

2016/09/21(水)(村田真)

彦坂尚嘉 FLOOR EVENT 1970

会期:2016/09/09~2016/10/29

MISA SHIN GALLERY[東京都]

彦坂尚嘉が床にラテックスを撒いた「フロア・イベント」の記録写真展。このイベントは1970年、第1回美共闘レヴォリューション委員会がプロデュースした個展シリーズの準備として実行された。全裸の彦坂とアシスタント(?)の小柳幹夫が8畳間と縁側に缶入りの白いラテックスを撒いて広げたが、それを庭側から定点観測的に撮った写真が10点。これは刀根康尚が撮影したという。ほかに、ラテックスが乾く過程を彦坂自身が室内から撮った写真も8点ある。このラテックスを撒く写真はしばしば見かけるが、アパートでよくこんなことが許されたもんだと不思議に思ってたら、彦坂自身の自宅だったのね。美大出たての前衛美術家はアパート住まいと勝手に思い込んでいたのだ。それはともかく、美共闘の記録写真が商品として流通する時代になったのが驚き。

2016/09/21(水)(村田真)

大山エンリコイサム Present Tense

会期:2016/08/20~2016/09/24

タクロウソメヤコンテンポラリーアート[東京都]

グラフィティにインスパイアされたペインティングとドローイングの展示。特にジグザグに蛇行する「クイック・ターン・ストラクチャー」と呼ばれるパターンが多いが、新作では腕をぐるっと回して描いた円をベースにしたペインティングが際立つ。まるでレオナルドの《ウィトルウィウス的人体図》みたいだが、これは腕のストロークを生かしたグラフィティの基本ともいえる。つーことはレオナルドもグラフィティの曾祖父くらいになるのかも。でも大山のそれはポロックとの親近性も強く、とりわけ小さめの黒一色で描かれた(撒かれた?)ドリッピング絵画を思い出す。ただドリッピングは寝かせた画面に直接筆をつけずに絵具を撒くので、純粋な腕のストロークとは違う。その意味ではむしろ、アクション・ペインティング以前の絵筆を使った横長の大作《ミューラル》に近いかもしれない。

2016/09/21(水)(村田真)

亜真里男 The situation is under control

会期:2016/09/03~2016/10/01

青山|目黒[東京都]

国会前でデモする人たちを描いた大作絵画を中心に、周囲に同様の写真を数十枚並べている。主題はタイトルを見るまでもなく「反原発」だ。奥の部屋にはタブロー形式の書が並び、正面の大作はおどろおどろしい色彩と筆触で「炉心溶融」と書かれている。これはストレート。亜真里男は本名マリオ・アンブロジウス=Mario A。それを日本風にひっくり返してA・マリオ、それを漢字に直して亜真里男になったそうだ。スイス生まれのドイツ育ちで、ヨーロッパでは国によってエネルギー政策が異なるため、原発には敏感にならざるをえない。日本に来て30年以上たつというが、いまだ新鮮な目で日本をながめている。

2016/09/20(火)(村田真)