artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ダリ 展

会期:2016/09/14~2016/12/12

国立新美術館[東京都]

眼に異常を感じたので、展覧会に行く前に眼科医に見てもらったら、検査のため瞳孔を拡大する薬を差され、視界が白くぼんやり感じる。4、5時間ほど直らないらしいので、仕方なく瞳孔が開いたまま内覧会を見る。まるで突っ立った死体。まあダリ展にはふさわしいかも。ちなみに眼の異常は単なる飛蚊症でした。さて今回のダリ展、サブタイトルがついてない。生誕100年とか没後50年とかでもなく、またダリの母国スペインとの国交何年というわけでもなく、ただの「ダリ展」なのだ。モチベーション下がるなあ。ざっと見ていくと、初期のころはポスト印象派やフォーヴィスム、キュビスム、抽象とさまざまなスタイルを試し、20代なかばごろから幻想的な風景をリアリズム風に描写する、いわゆるダリのスタイルを確立していくのがわかる。以後半世紀にわたりこのダリ・スタイルを維持した(最晩年はメロメロに崩れ、なぜか岡本太郎を彷彿させる)。たしかにこうした寂寥としたイメージは魅力的だし、多くの日本人画家が昭和初期の不安定な時代に影響を受けたこともうなずけるが、もはや感性のすり切れたおやじには、かつて夢中でながめたなあという懐メロ気分しか味わえない。それより飛蚊症のほうがよっぽど刺激的だ。

2016/09/13(火)(村田真)

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第6回公募 新鋭作家展二次審査(プレゼンテーション展示公開)

会期:2016/09/06~2016/09/19

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

来年の「新鋭作家展」に向けた公募の第2次審査で、1次審査通過者8組(2人の辞退者を除く)によるプレゼンテーション展示を一般公開している。ストリートアートみたいにテンポラリーなフレスコ画を目指す河田知志、日常品をセメントで固めて鋳型をつくって並べる大場さやか、自分を他人に演じさせながら本人と対話する藤井龍、世界地図を立体的につくって水没させる熊野陽平などどれも力作ぞろい。でもこの「新鋭作家展」、いい作品をつくればおしまいというのではなく、市民とともに展覧会をつくりあげていくことを目標とする注文の多い公募展なので、市民が介入する余地のあるプランを選んだ。入選したのは、川口の夜のネオンを背景に影絵をつくって撮影する佐藤史治+原口寛子、新聞紙を鉛筆で塗りつぶし星雲を浮かび上がらせる金沢寿美の2組。これから1年かけて市民も交えて作品=展覧会をつくっていくというから、アーティストもキュレーターも楽じゃない。

2016/09/12(月)(村田真)

メアリー・カサット 展

会期:2016/06/25~2016/09/11

横浜美術館[神奈川県]

オープニングに行くつもりだったのがズルズル延びて、とうとう最終日の9.11になってしまった。メアリー・カサットといえばベルト・モリゾ、エヴァ・ゴンザレスと並ぶ印象派の女性画家のひとり。3人だけって少ないようだけど、でも19世紀としては多いほうでしょう。20世紀に入っても、フォーヴィスムやキュビスムの女性画家ってだれかいた? ほとんど思いつかない。ってことは印象派と女性画家は比較的相性がよかったのかもしれない。たしかに血みどろの物語画を構築するより身近な日常的主題を印象的に描くほうが、当時の女性画家には合っていたはず。なかでも彼女らにとって重要な主題になるのが子供および母子だ。もちろんそれまでにも子供や母子は描かれてきたけれども、例えば《眠たい子どもを沐浴させる母親》や《母の愛撫》は、伝統的な聖母子像とはまったく違う親密感が漂いまくっていて、むせるほど。その一方、女性像にも変化が見られる。これは解説にも書かれているが、代表作のひとつ《桟敷席にて》では、それまで「見られる」存在だった女性が、ここではオペラグラスで「見る」存在に転換している。でもその向こうの席からハゲおやじが女性を見ている様子も描かれていて、いまだ「見られる」存在であることも示唆している。このハゲおやじが旧約聖書における裸のスザンナをのぞき見た長老ってわけだ。意味合いは大きく変わっても、構図は伝統的な宗教画を踏襲していることがわかる。カサットはアメリカ生まれで、パリに出て画家修業をし、印象派展に参加。しかし作品の大半はアメリカの美術館の所蔵で、フランスの美術館からの出品は花瓶1点を除いて皆無。母国アメリカが買い占めたのか、それとも本場フランスでの評価が低かったのか。

2016/09/11(日)(村田真)

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没後110年 カリエール 展

会期:2016/09/10~2016/11/20

損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]

カリエールって地味であまり人気はないけど、けっこう好きな画家。1849年生まれだから印象派やポスト印象派と同世代で、ぼんやりとした画風も印象派に近いが、ほとんど色彩がなく印象派でもポスト印象派でもない。しばしば象徴主義に括られるけど、描いてるものは身近なモチーフが多く世俗的。しかもモノでも光でもなく、そのあいだにある空気を描いてるような印象だ。また、顔などに焦点を合わせて服や背景をぼかし、色彩もほぼセピア色である点は写真を意識したのか。あえていえばフェルメールに近い。そんな微妙な立ち位置もあるのか、作品を見る機会は少なく、10年前に西洋美術館で開かれた「ロダンとカリエール展」以来だ。ちなみに作品の大半は画家の子孫にあたるフランスの個人コレクションと、新潟市美術館から借り入れたもの。カリイレール展、なんてね。

2016/09/09(金)(村田真)

驚きの明治工藝

会期:2016/09/07~2016/10/30

東京藝術大学大学美術館[東京都]

最近、超絶技巧の明治工芸が人気を集めている。理由は一目瞭然、驚くほど緻密でリアルだからだ。例えば宮本理三郎の《葉上蛙》は、文字どおり葉の上に止まったカエルの彫刻だが、これがひとつの木から彫り出されていることに舌を巻く。《竹塗水指》はどう見ても竹筒を利用した器だが、じつは木で彫られているとかね。「自在置物」と呼ばれる金属彫刻はもっとすごい。エビや魚や昆虫が本物そっくりにつくられているが、それだけでなく鱗や節を結節点にリアルに動くのだ(もちろん展示物は動かせないが)。でもこれらはあまりに本物そっくりで、あまりに楽しすぎるので芸術としての評価は低く、「置物」どまりだったのだ。その評価が変わったのは、「芸術」の価値観そのものがひっくり返った最近のことでしょうか。驚くのはこれらのコレクションがひとりの台湾人、宋培安がここ20数年のあいだに集めたものだということ。ってことは、つい最近までそれほど高くない値段で市場に出回っていたということだ。それも驚き。

2016/09/06(火)(村田真)

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