artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
荒木悠展 複製神殿
会期:2016/02/26~2016/04/03
横浜美術館アートギャラリー[神奈川県]
荒木が下見のために横浜美術館のギャラリーを訪れたとき、彼が初めて作品を発表したアメリカ・ナッシュビルのパルテノン神殿に付属する地下ギャラリーに似ていると思ったそうだ。ナッシュビルのパルテノン神殿は19世紀末に開かれた博覧会のときに建てられた原寸大のレプリカだが、少年期から同地に住み神殿を見慣れていた彼は、長じてアテネにパルテノン神殿のオリジナルがあることを知って驚いたという。その後アテネを訪れる機会があり、「複製神殿」のタイトルの下「オリジナルと複製」「ホンモノとニセモノ」をテーマに映像を撮ることにしたそうだ。テーマはすこぶるおもしろいのだけど、作品からそのおもしろさが十分に伝わってこない。
2016/03/08(火)(村田真)
MOTアニュアル2016 キセイノセイキ
会期:2016/03/05~2016/05/29
東京都現代美術館[東京都]
入口の正面に、ウオッカをラッパ飲みする女子高生の大きな写真が掲げられ、右側の壁には黒一色の落書きがされている。奥に進むと、陳列ケースに展示物はなく、キャプションだけが置かれた状態……。テーマを知らずに入ったせいか、どの作品も投げやりに見えてあまりいい印象ではない。ここでプレスツアーが始まったのでついていく。今回のアニュアル展は美術館の学芸員だけでなく、アーティストたちの組織「アーティスツ・ギルド」と協働で企画されたこと、社会規範を揺るがしたり問題提起を試みたりする表現行為に焦点を当てたこと、などを知る。なるほど、ウオッカを飲む少女の写真はコスプレイヤー齋藤はぢめの作品で、壁の落書きはルーマニア出身のダン・ペルジョヴスキが表現の自由や検閲批判を表わしたもの。キャプションだけの展示は、東京大空襲に関する資料館の建設計画がストップし、展示物が放置されていることに反応した藤井光のインスタレーションということだ。こうして解説を聞くと、表現の規制を問題にするといういささか挑戦的な企画の枠組みが見えてきて、最初の印象は修正しなければならない。昨年、会田誠の作品をめぐって撤去騒動を起こした同館だけに、よくぞ企画が通ったもんだと感心する。その一方で、「あなた自身を切ることができます」とのコメントとともに包丁を壁に突き立てた橋本聡の作品には、透明アクリルケースがすっぽり被せられているし、高さ2メートルほどのフェンスを設け、その向こうに「フェンスを乗り越え、こちら側に来ることができます」と書いた同じ作者の作品の手前には「作家の意図とは異なりますが、危険ですので登らないでください」との注意書きがある。そのチグハグさには笑ってしまうが、この作品は同展においてこの自主規制によって成就したともいえる。ほかに、「小学生以下はお控えください」と「中学生以下はお控えください」という2コースを設けた(素人目には違いがわからない)横田徹の戦闘シーンの映像や、妻の自殺現場を写した古屋誠一のコンタクトプリントなど、かなりハードな展示も。
2016/03/04(金)(村田真)
スタジオ設立30周年記念 ピクサー展
会期:2016/03/05~2016/05/29
東京都現代美術館[東京都]
「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」「アーロと少年」など、高度なCGアニメを生み出してきたピクサー社のアーティストやデザイナーによるドローイング、パステル画、デジタル画、彫刻、ゾートロープなど約500点を展示。アートかどうかは別にして、これは楽しい。「平面に描かれたアートワークを、デジタル技術を用いて動きのある動画コンテンツへと生まれ変わらせ、幅10メートルを超える大型スクリーンに投影するインスタレーション」もあって、これを「アートスケープ」と呼ぶそうだ。どっかで聞いたことあるような。
2016/03/04(金)(村田真)
サイモン・フジワラ「ホワイトデー」
会期:2016/01/16~2016/03/27
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
受付で解説を渡される。読まなきゃ理解できない展覧会なのかな。最初は解説を見ずに回ってみる。まず導入部に、紙袋に入った毛皮、その奥には木の枝が床に置かれ、その下に賽銭のようにコインがまかれている。なんだろう? コインに導かれてメインギャラリーに入ると、古い紙幣でつくった扇子、スターリンらしき人のマスク、割れた陶器、鷲の石像、須田国太郎の掛軸、グラスに入った牛乳の絵、皮革を張ったキャンバス、毛皮の毛を皮からはがす人、マーク・ロスコを縦に延ばしたような絵、大きく引き延ばした名刺、白人女性の型取り彫刻などが並び、隣のギャラリーにも女性の型取り彫刻が兵馬俑よろしく整列し、奥には映像が投影されている。ホワイトキューブの会場、「ホワイトデー」のタイトルも含めてなんとなく「寒い」イメージばかり。解説によれば、バレンタインデーのお返しをするホワイトデーは「個人の感情と消費を結んだ見事なシステム」だとして、「私たちが日ごろ無意識に受け止めている『システム』に光を当て、その背後にさまざまな理由、経緯、ときには思惑が存在することを明らかに」するものだという。具体的にいうと、女性の彫刻はロンドンの暴動に参加したことで液晶モニター工場に送られた少女で、牛乳の絵は、牛乳というものを見たことも飲んだこともない国の絵画工房に依頼して描いてもらったものらしいが、ときにフィクションも挿入されるそうだ。いずれにせよ最初からひとつのインスタレーションを目指したものではなく、個々に組み立てられた物語を寄せ集めてひとつのインスタレーションとして見せたってわけ。これを楽しむにはかなり高感度なセンサーと忍耐力が必要だ。
2016/03/02(水)(村田真)
TWS-NEXT @tobikan “クレアボヤンス”
会期:2016/02/19~2016/03/06
東京都美術館[東京都]
クレアボヤンスとは透視とか千里眼、優れた洞察力といった能力を指す。出品は鎌田友介、three、平川ヒロ、増本泰斗、三原聡一郎。それぞれ東日本大震災やエネルギー問題などの社会的テーマに独自の視座でアプローチしているが、残念ながらぼくにはこれらの作品のすばらしさを見抜けるほどのクレアボヤンスはないようだ。こうしたリサーチ系の作品にありがちなことだが、透視以前に見ていてつまらない。
2016/03/01(火)(村田真)