artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
TWS-Emerging 2016
会期:2016/04/09~2016/05/08
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
今年度第1期は田中秀介、大杉好弘、田中里奈の3人の展示。3人とも共通するものがあり、またレベルも拮抗していて見ごたえがあった。田中秀介のモチーフは家や風景や日用品といった身近なものだが、その日常性をくつがえすような視野や荒い筆触によって、もうひとつの現実を垣間見せてくれる。カセットテープをそのまま小さなパネルに描いた《夕刻巻》など、オッと思わせる。大杉は机上の文具、本、コップ、フィギュアなどを薄めた絵具でサラリと描いているが、レイヤーをかけたようなちょっと現実離れした空気感が漂う。別の部屋には絵のモチーフとなった自作の陶製の置物が展示されている。田中里奈は京都嵐山にあるお寺の庭を換骨奪胎して再構成したもの。木の幹や草などは筆で勢いよく描かれ、絵具のかすれも生かしている。色彩は日本的ともいえるシブイ中間色で、薄塗りと厚塗りの強弱をつけたり絵具に砂を混ぜたり、いろいろ試みている。田中秀介が哲学的、大杉が現象学的だとしたら、田中里奈がもっとも美学的といえるかもしれない。アプローチは異なるけれど、いずれも筆触を生かして「絵画らしさ」を強調しているのが興味深い。
2016/04/23(土)(村田真)
ALLOY & PEACE
会期:2016/04/19~2016/04/24
スパイラルガーデン[東京都]
江口寿史、空山基、田名網敬一、寺田克也、中村哲也、フロリアン・クラールのイラストやドローイングを、鋳物技術を使って立体化する試み。フィギュアづくりと同じで、原型師が平面の絵から粘土で原型をつくり、鋳型を取って金属彫刻に仕上げていく。ちなみに今回は中村哲也が原型を制作したという。タイトルの「ALLOY & PEACE」は「合金と平和」という意味。なんで合金と平和が&でつながってるのかと思ったら、協賛してるのが株式会社平和合金だからだ。たぶん。
2016/04/21(木)(村田真)
久松知子「芸術家の研究所」
会期:2016/04/08~2016/04/28
岡本太郎記念館[東京都]
現在開催中の「生きる尊厳─岡本太郎の縄文─」展(3/2-7/3)の会場内で、昨年、岡本太郎現代芸術賞の岡本敏子賞を受賞した久松知子の新作2点を展示。1点は《芸術家の研究所》というタイトルで、太郎と敏子を中心に、手前に丹下健三と磯崎新が万博のお祭り広場と太陽の塔の模型を前に対座し、右手に花田清輝や針生一郎らしき顔が見える集団肖像画だ。時代は万博前の60年代末ごろ、場所はまさにこの記念館になった太郎の家。バックには太郎のつくったオブジェや著書などが散りばめられ、左上には巨大壁画《明日の神話》に付加されたChim↑Pomによる福島原発事故の絵も見える。もう1点は、遠景に太陽の塔やキノコ雲がいくつか描かれ、その手前(下半分)に黄色い田畑らしき平面が広がり、画面やや上を新幹線が横切る構図だ。よく見ると鉄腕アトムが飛んでいたり、《明日の神話》にも出てくる第五福竜丸らしき漁船も見える。これは同時期に制作された太陽の塔と《明日の神話》をダブルテーマにした絵だろう。妙なのは、画面の最下部が帯状にセメントで固められていること。ナゾの多い絵だ。
2016/04/21(木)(村田真)
近代百貨店の誕生 三越呉服店
会期:2016/03/19~2016/05/15
江戸東京博物館[東京都]
百貨店の展覧会なのに、いきなり明治初期の博覧会の紹介から始まり、その博覧会から博物館に移行し、勧工場を経てようやく三井呉服店、三越百貨店の話になる。事情に疎い人は面食らうだろうが、これはモノの集め方、見せ方の劇的変化を物語っている。江戸時代の呉服店が近代的な百貨店に生まれ変わるには、商品の陳列革命が必要だった。その過程を物語る場として博覧会や博物館、勧工場を取り上げているのだ。江戸時代の呉服店では商品は陳列されず、客は畳に上がって「これこれこういう品物を」と希望を伝え、店員はそれに見合った商品を出してくる「座売り方式」だった。それが明治になると呉服店も博覧会(日本では博物館のルーツ)を見ならって品々を展示公開し、それを客が見て選ぶ「陳列販売方式」に変わり、百貨店が誕生する。つまり百貨店の前提は博覧会・博物館と同じく「見る」ことだった、というわけだ。ちなみに勧工場とは百貨店に先駆けて、博覧会の残り物を陳列販売した商業施設のこと。だから勧工場は博覧会と百貨店をつなぐ橋渡し役を果たした店といえる。このようにモノを集めて見せるというのは近代の基本中の基本だ。考えてみれば博覧会も博物館も百貨店も、すべて「たくさんのモノを集めて見せる場所」といった意味ではないか。
2016/04/20(水)(村田真)
クリテリオム92 土屋紳一
会期:2016/02/20~2016/05/15
水戸芸術館[茨城県]
昔、作者がつくったカセットテープを聞く人たちのビデオと、70年代のオーディオ機器4台がそれぞれ分解されるまでの写真の展示。一瞬オタクかなと思ったが、配布プリントを見ると社会意識の高さがうかがえる。配布プリントにはフィリップス社によりテープ・レコーダが発売された1962年以降のカセットテープの移り変わりと、現在までの電子メディアの発達史が、国内トピックと世界情勢などとともに年表にまとめられているが、特筆すべきは「電力関連」として福島第一原発1~4号機の着工から事故停止までも載せていること。東京造形大学、IAMAS、デュッセルドルフ芸術アカデミーを出たグローバルな視野を有するアーティスト/アクティヴィストのようだが、近年日本での発表が少ないのが残念。
2016/04/19(火)(村田真)