artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
山岸俊之展「四十九日の空」
会期:2016/03/28~2016/04/02
なびす画廊[東京都]
市川市に住む作者が江戸川の河原を撮った風景写真。といっても画面の大半は空に占められている。タイトルから察するに、個人的な体験に基づく作品かと思ったら、本人いわく「まるで四十九日を過ぎ彼岸に行ってしまった私が空から此岸をみているよう」な風景だという。そして「ごく見慣れた風景が永遠性を帯びる瞬間を常に待っている」と。写真は自作の額や大型カメラのフィルムを装填するフレームに入れ、破格の値段で分けている。新作を世に問うとか、独自の表現を追求するといった力みもなく、ましてや金もうけとは無縁の、もうひとつ別の貸し画廊の使い方。
2016/04/01(金)(村田真)
赤塚祐二
会期:2016/03/21~2016/04/02
コバヤシ画廊[東京都]
階段を下りてドアのガラス越しに見たら、正面に「壁」があった。もちろん現実の壁ではなく絵なのだが、しかもフラットではなく空間性を感じさせる絵なのだが、そのことも含めて白い壁よりもっと「壁」らしく見えたのだ。赤塚は一貫して表現主義的なペインティングを追求しているが、必ずしも安定しているわけではなく、具象と抽象のあいだを揺れ動いている。ここ数年はかなり具象寄りだったが、今回はまた抽象に振れた印象だ。ところで壁は具象か、抽象か。
2016/04/01(金)(村田真)
國府理展 「オマージュ相対温室」
会期:2016/03/07~2016/05/09
ギャラリーエークワッド[東京都]
北砂からトボトボ南下すること約20分、新砂にある竹中工務店のギャラリーエークワッドへ。2年前、国際芸術センター青森での展覧会中に事故で亡くなった國府理(享年44)の、その最後の展示「相対温室」をできるだけ忠実に再現している。國府は自動車や自転車やプロペラなどに関心を寄せ、動く作品や自然を採り込んだエコロジカルなアートを試みてきたアーティスト(どうやら作品に使った自動車の排気ガスが死因らしい)。メインの作品は、2メートルほどの高さに置かれた水槽から木の樋をつないで水を流し、円形の水盤で受けて再び水槽に戻すという循環系のインスタレーション。樋にも水盤にも土や砂利が盛られ、コケや雑草が生えている。ギャラリーのサイズが違うので必ずしも厳密な再現ではないが、それを差し引いてもちょっと不自然に思えたのは、青森ではカーブしたギャラリーに合わせて樋も弧を描いていたのに、ここでは直線(長方形)の空間にもかかわらず樋が弧を描いていることだ(しかも弧の向きが逆)。青森ヴァージョンに忠実なら弧を描くべきだが、もし作者自身が再現するとしたらこうはならなかったのではないか。というか、本人不在のもと別の空間で再現されるなど考えもしなかったはず。そう考えると複雑な気分になる。ほかに、隣室には自動車の内部を冷蔵庫に見立てた作品、屋外には巨大な温室を出品。
2016/04/01(金)(村田真)
ぼくと戦争─小池仁戦争体験画展
会期:2016/02/24~2016/04/10
東京大空襲・戦災資料センター2階[東京都]
東京大空襲・戦災資料センターは文字どおり東京大空襲の記録と記憶を伝えるため、2002年に開館した民立民営の施設。場所は地下鉄住吉駅から徒歩15分ほどの江東区北砂。会場はギャラリーというより多目的スペースで、椅子が並んでいたりピアノが置いてあったり、ほかの人の絵や戦災資料なども展示してあるので、どこからどこまでが小池仁の作品かわかりづらい。ここでは作家性や固有名より、戦災体験の記憶と記録を伝えることが重要なのだ。小池の作品は100号前後の大作7点と、A4の紙に描いたスケッチが30点ほど。スケッチは、昨年自費出版した画文集『戦争をしてはならない本当の理由』の原画だという。この出版を機に展覧会を開くことになったようだが、展示のメインはやっぱり油絵の大作7点だ。東京大空襲の被災地・被害者を描いた《焼跡の少年》《燃える人》《1945. 3. 10 TOKYO》などのほか、日の丸を背景に昭和天皇らしき軍服姿の二人の人物を描いた《3月18日のドンキホーテ》と題する作品もある。3月18日(1945)というのは天皇が東京大空襲の焼跡を視察した日だが、事前に死体は片づけられていたというから、その隠蔽工作を皮肉ったものだろう。いずれも主題は重いが、絵柄は表現主義風あり、抽象風あり、キュビスム風?ありと多彩。いろいろ試してみたというより、ひとつのスタイルでは描ききれないほど重く、複雑な体験だったということかもしれない。しかもすべて2000年以降の制作というから、戦後50年以上たたなければ絵にすることさえできなかったということだ。
2016/04/01(金)(村田真)
中村一美個展
会期:2016/03/08~2016/04/02
カイカイキキギャラリー[東京都]
作品は計13点。とりあえず「絵巻」シリーズとそれ以外に分けてみる。「絵巻」シリーズは、絵具たっぷりの斜線が勢いよく何本も引かれた「斜行グリッド」と呼ばれるパターンで構成されたもので、その斜行グリッドの影のようなイリュージョナルな薄い線まで入っている。淡い藤色や薄もえぎ色の背景色といい、絵巻の建物の描写を思わせる斜めの平行線といい、いかにも日本的なデザインだ。これはある意味わかりやすいし、スーパーフラットにも通じるし、比較的多くの人に受け入れられるだろう(中村の作品のなかでは)。それに対して、それ以外の、例えば《北奥千丈VI》などは、絵具をベタベタ塗りたくった表現主義的な抽象だが、画面は混乱しているし、色彩も美しくないし、失敗作と見られかねない作品だ。それなのになんでこんな作品も入れたのかといぶかしく感じたが、その一方で、ひょっとして、この違和感こそ狙いだったのかもしれないと思ったりもした。リーフレットのコメントによれば、この違和感を中村は「不協和音」と呼び、まさに「私の意図するところ」という。この「不協和音」がすばらしいのではない。「不協和音」を恐れぬ勇気がすばらしいのだ。
2016/03/30(水)(村田真)