artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

アートとリサーチ

会期:2016/03/15~2016/03/29

札幌市資料館 SIAFラボ プロジェクトルーム[北海道]

今日のお仕事は、北海道をテーマにしたワークショップの講評会。明日アーティストの島袋道浩とトークを行なうのだが、どうせだからということで、島袋くんが講師をしているこのワークショップの講評会にも参加することになった。このワークショップは、参加者がそれぞれテーマを設定して北海道をリサーチし(北海道を旅しながらテーマを固めていくといったほうが正確か)、その過程をウェブ上にアーカイヴしていき、最後に展示と講評会を行なうというもの。参加者は11人(女性が8人)で、みんな40歳以下。島袋くんが選んだだけあって、いわゆるプレゼン慣れしたアーティストっぽい人は少なく、ひとクセもふたクセもありそうな若者が集まった。ユニークなのは一人5万円ずつ与えられ、自由に使っていいこと。大半は道内の移動に使われたようだが、このように財源に余裕があるのは、2年前から始まったSIAF(札幌国際芸術祭)効果らしい。プレゼンでは2、3おもしろいのがあった。佐藤拓実は「夷酋列像」などに描かれるアイヌ人の着物が左前であることに気づき、いろいろなアイヌ像をリサーチ。それとは別に、富士山と羊蹄山(蝦夷富士と呼ばれるが、高さは2分の1)の同じ高さのモデルをロールペーパーでつくった。阿児つばさは音威子府に赴き、かつて凍った川の氷を切って向こう岸に渡して橋として使ったという「氷橋」をリサーチし、現代に蘇らせようとする。どちらも役に立たないどうでもいいような事象に着目した点で、まずは合格。もうひとり、新谷健太は幼いころに生き別れた父に会うため道内を旅し、なんと「再会」というスナックで再会したというウソみたいなストーリー。運賃やスナック再会の領収書、写真などをなぜか二重窓のあいだに挟み込むといういじけた展示もすばらしい。彼は5万円の公費を使って極私的な用件を済ませたわけで、ある意味このワークショップをもっとも有効活用したってわけ。

2016/03/26(土)(村田真)

モーション/エモーション─活性の都市─

会期:2016/01/17~2016/03/27

札幌芸術の森美術館[北海道]

北海道新幹線開業の日に札幌へ。もちろん新幹線は函館止まりなので、飛行機でひとっ飛び。昼前に新千歳に到着したが、約束の時間まで4時間ほどあるので、バスで真駒内に出て芸術の森に直行、「モーション/エモーション」展を見る。特に見たいわけでもないけれど、北海道に関連する企画展らしいし、年度末のせいかほかの美術館も大した展覧会やってないし。よその地に行くと必ずひとつやふたつ美術館を訪れずにはいられないというビョーキみたいなもんだ。同展は「北海道を中心に活躍する9人のアーティストたちの作品約90点を通じ、一つの生命体のように増殖と明滅をくりかえす都市の姿と、そこに生きる人々の感情に焦点をあてます」とチラシにある。絵画から彫刻、写真、インスタレーションまで、若手からベテラン、物故作家まで多彩だが、北海道という共通点以外なにか通底するものがあるような気がする。それは仕事が細かく、丁寧なこと。特に武田志麻の細密な木版画、野澤桐子のリアリズム肖像画、クスミエリカのデジタルコラージュ、森迫暁夫の童画のようなインスタレーションにそれを感じる。寒いからアトリエにこもってコツコツと仕事をするしかないからだろうか、と考えるのは北海道に対する偏見ですね。いずれにせよ多くの作品が工芸的に見えるのだ。唯一異なるのが廃材を使った楢原武正のインスタレーションだが、一見荒々しい彼の仕事もけっこう気を遣って構成されているように見える。仕事が丁寧なのはもちろん悪いことではないけれど、それだけで充足してしまいがちで、なにかものたりなさを感じてしまうのも事実。30分ほどで切り上げ、雪でぬかるんだ道を急いでバス停へ。

2016/03/26(土)(村田真)

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さいたまトリエンナーレ2016 記者発表会

会期:2016/03/25

日本外国特派員協会[東京都]

この秋さいたま市で開かれる「さいたまトリエンナーレ」の概要発表。ディレクターは芹沢高志で、テーマは「未来の発見!」、おもなアーティストは、秋山さやか、チェ・ジョンファ、日比野克彦、磯辺行久、目、西尾美也、野口里佳、大友良英、小沢剛、ソ・ミンジョン、アピチャッポン・ウィーラセタクンら約40組。ま、要するに各地に乱立するトリエンナーレとかわりばえしないということだ。もちろん展覧会の外枠はかわりばえしなくても、場所が変われば作品も変わる。その意味で、各アーティストが「さいたま」でどれだけモチベーションを高められるかが見どころだ。会期は9月24日から12月11日まで。場所は与野本町駅から大宮駅周辺、武蔵浦和駅から中浦和駅周辺、岩槻駅周辺の3エリア。

2016/03/25(金)(村田真)

/in/visible_GABOMI. 展

会期:2016/03/02~2016/03/25

資生堂ギャラリー[東京都]

自ら開発した「TELENS」「NOLENS」といった手法で撮られた写真。「テレンズ」って望遠レンズかなにかかと思ったら、手をレンズ代わりにして撮影する「手レンズ」のこと。「ノーレンズ」はそのままレンズを使わずに撮ることだそうだ。テレンズはぼんやりボケるけど被写体がなにかわかるが、ノーレンズはかたちがなくなり色しか写らない。またテレンズは一様にオレンジがかっているが、それは血液が透けて写っているからだという。圧巻は壁一面に貼られた洋上に昇る朝日のテレンズ写真。でも見てすごいとかおもしろいとかいうもんでもない。

2016/03/24(木)(村田真)

第9回展覧会企画公募

会期:2016/02/27~2016/03/27

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

作品公募ではなく、展覧会の企画を公募し、3点の入選プランを展覧会として実現させるもの。見た順に記すと、まず、門馬美喜企画の「Route/59ヶ月」。大震災の混乱のさなかに生まれた5歳になる子供に、福島県相馬市と東京との移動中の風景をカメラで撮ってもらい、それを元に描いた絵を大小合わせて30点ほど展示している。どれも人物がほとんど出てこない殺風景な絵ばかりで、小品は壁にランダムに並べ、100号前後の大作は壁に立て掛け、片隅には角材やスチロールの木っ端を置き、全体に投げやりな空気を漂わせている。次はエ☆ミリー吉元企画の「バロン吉元の脈脈脈」。これは企画者の父である漫画家バロン吉元の作品展だが、原画だけでなく80年代から手がけるようになったイラストやタブローも紹介している。展示は時系列ではなく、正面に100号3枚を横につないだ白黒の巨大タブローを据え、両側に原画やイラストなどを交互に配列。最後は高川和也企画の「ASK THE SELF」で、「いかにして今を生きることが可能か」を問うための試みとして映像を上映。母親らしき女性が登場し、対話ならぬ対話が重ねられる(途中で出たのでどういう展開か知らないが)。図らずも3本とも親子のコラボレーションであり、図らずも3本とも展覧会企画というより、展覧会そのものであった。

2016/03/24(木)(村田真)