artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
VOCA展2016 現代美術の展望─新しい平面の作家たち
会期:2016/03/12~2016/03/20
上野の森美術館[東京都]
今年は全体的にレベルが高かったような気もするが、印象に残る作品は少なかったような気もする。単にぼくの感受性と記憶力が摩耗しただけかもしれないけれど。そんななかで印象に残った作品をいくつか挙げると、まず、自宅のガラス窓に感光材を塗って外の風景を焼きつけた鈴木のぞみの《Other Days, Other Eyes》。ニエプスの史上初の風景写真のように、モノクロの風景が白く飛んでいて、自宅の窓に染みついたノスタルジーまでもが増幅されている。窓枠が額縁の役割を果たしているのもグッド。グラフィティの要素を抽出してキャンバスに構成した大山エンリコイサムの《FFIGURATI #117》は、壁の代わりにキャンバスに描いたというより、キャンバスを壁化したというべきか。絵画の公と私、内と外を考えさせる。ピンク色のオールオーバー絵画3幅対を出した今実佐子の《そして今日もまた眠るだけ》は、口紅やファンデーション、アイシャドウなどの化粧品を塗ったもの。絵として見てもけっしておもしろいもんではないけれど、もともと顔に塗られるべき素材がキャンバスに塗られていること、洞窟壁画以前の最初の絵画はおそらく化粧や刺青であったこと、などを考えると興味深いものではある。これは自画像である、と比喩でなくいえる。
2016/03/17(木)(村田真)
カラヴァッジョ展
会期:2016/03/01~2016/06/12
国立西洋美術館[東京都]
日本でのカラヴァッジョ展は10数年ぶりだろうか、前回はホンモノがわずかしか来なかったと記憶しているが、今回はけっこう来ているなあという印象だ。それでも出品作品50点ほどのうち、カラヴァッジョはわずか11点にすぎない。なのにたくさん見た気になるのは、残りの40点ほどが彼の影響を受けたカラヴァジェスキの同工異曲の作品なので、ついカラヴァッジョをたくさん見たと錯覚してしまうからだ。それにしてもなぜ11点しか来ないのかというと、もともと全部で60点余りしかないうえ、大作・代表作の多くが壁にはめ込まれて移動不可能だからだ。11点しか来ないのではなく、11点も来てくれたことに感謝すべきかもしれない。イヤミはさておき、おもな作品を列挙すると、背景が明るい初期の《女占い師》、果実の描写が見事な《果物籠を持つ少年》、有名な《バッカス》、有名ではないほうの《エマオの晩餐》、首を斬り落とされた《メドゥーサ》、やけに艶かしい《法悦のマグダラのマリア》など。その合間にホセ・デ・リベーラ、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、アルテミジア・ジェンティレスキ、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニらカラヴァジェスキの作品が挿入される構成だ。目を引くのは「斬首」を特集した部屋。先の《メドゥーサ》をはじめ、ダヴィデに倒されたゴリアテや、ユディトに寝首を掻かれたホロフェルネスなどの絵を6点ほど集めている。殺人を犯したカラヴァッジョならではの項目立てだが、西洋では「斬首」だけで展覧会が成立するほど人気ある主題でもあるのだ(実際1998年にルーヴル美術館で「斬首の光景」展が開かれている)。さて、カラヴァッジョを離れてもっとも興味深かった1点は、タンツィオ・ダ・ヴァラッロの《長崎におけるフランシスコ会福者たちの殉教》という作品。題名どおり長崎の信者が磔にされる場面を描いたもので、日本に行ったことはおろか極東に関する情報も皆無に近い当時の西洋人にありがちなように、登場人物はほとんど日本人離れしているのだが、でもわずかに2、3人は日本人らしい風貌と服装をしている点に注目したい。
2016/03/17(木)(村田真)
浜田涼展
会期:2016/03/14~2016/03/19
藍画廊[東京都]
昔よりボケたなあ、いや作品の話。ボケてよくなったと思う。目がボケたのかな、いや頭がボケたかも。
2016/03/15(火)(村田真)
MIYAKE ISSEY展:三宅一生の仕事
会期:2016/03/16~2016/06/13
国立新美術館[東京都]
内覧会の前に安藤忠雄、ジャック・ラングらそうそうたる来賓のあいさつが続き、ようやく終わったと思ったら、招待客が多すぎて入るまで20分くらいかかった。美術展には珍しいことで、一生さんの人気と底力を見せつけられる。ちなみに女性の招待客はやはりプリーツ姿が目立ち、華やか。でもね、入ったらわかるけど、展示品と見比べられちゃいますよ。さて、最初のギャラリーはランウェイを思わせる細長い空間で、段ボール製のマネキンに初期の70年代の実験的な(いつも実験的だが)ドレスやジャンプスーツなどが一列に並べられている。次のギャラリーでは、アクリル製のマネキンに80年代のプラスチックボディやワイヤーボディが展示され、ぐるっと回ると仕切りのない広大なギャラリーに出る構成。ここではさまざまなパターンの「プリーツ」シリーズをはじめ、「一枚の布」から発想された「A-POC」シリーズ、折り畳まれた布から服が立ち上がる「132 5. ISSEY MIYAKE」シリーズなどが紹介されている。会場の一画にプレス機を持ち込んで、グラフィックデザイナー田中一光とコラボしたプリーツの製作過程も見られる仕掛け。三宅一生の根本的な問いは、「三次元である身体を二次元の布でいかにして包むか」というもの。これは「三次元の世界を二次元の平面にいかにして表わすか」という絵画の根本問題にも通じ、ここから「一枚の布」というコンセプトが導き出される。そこに(身体の)動き=時間を加えることで、一生ならではのユニークな服が展開されていくのだ。服を「一枚の布」に還元し、服の概念を問い直し続けるという意味で、三宅一生の服は最良のミニマル・アートであり、コンセプチュアル・アートでもあるだろう。
2016/03/15(火)(村田真)
見附正康 個展
会期:2016/02/27~2016/04/09
オオタファインアーツ[東京都]
絵つけ大皿5点に蓋つき器1点。大皿は絵柄が見やすいように壁に掛けてある。どれも極細の赤い線で幾何学的パターンを描いているが、よく見ると和洋やアラベスクなど伝統的な文様だったりする。5点のうち3点は図柄が皿の中心から放射状に広がっているが、1点は図柄の中心と皿の中心がズレ、もう1点は中心のない四角いパターンになっている。いずれにせよ、よくこんな細かいの描けたなと感心する以上の感興はそそられない。
2016/03/15(火)(村田真)