artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

アート・アーカイヴ資料展XⅢ。「東京ビエンナーレ'70再び」

会期:2016/02/22~2016/03/25

慶應義塾大学アート・センター[東京都]

1970年、中原佑介をコミッショナーに、内外のアーティスト40人を招いて東京都美術館で開かれた第10回日本国際美術展、通称「東京ビエンナーレ'70」。枕言葉に「伝説の」がつくこの国際展については多くが語られてきたが、展示の実体に関してはあまり知られていない。というのも、いわゆる絵画や彫刻は少なく、当時まだ珍しかったその場限りのサイト・スペシフィックなインスタレーションが大半を占めたため、現地制作が多くて展示場所がなかなか決まらず、会期中に場所を変更した作品もあったからだ。今回は残された記録写真を精査して、誰のどんな作品がどの展示室にどのように配置されていたかを同定する試み。作品写真の片隅にたまたま写っていた出入口の大きさや、その向こうの展示室にわずかに写る作品の一部、床板の張られている方向や照明の配列などを手がかりに、一つひとつ図面に落とし込んでいったという。これは大変な作業だけど、ハマったらやめられないだろうな。この資料展には作品の記録写真に加え、その写真から読み取れる情報を記した解説、各作品の配置を示した旧都美術館の平面図やマケットなどが展示されている。作品が「どうだったか」を検証するのではなく、作品が「どこにあったか」を検証する珍しい展覧会。おもしろかった。

2016/03/24(木)(村田真)

生誕150年 黒田清輝 日本近代絵画の巨匠

会期:2016/03/23~2016/05/15

東京国立博物館[東京都]

20年ほど前まではしばしば黒田清輝展が巡回していたように記憶するが、今回は久々の、そして過去最大規模の回顧展。パリ留学時代の自画像から人体デッサン、グレーの風景画、サロンに初入選した《読書》、帰国後「日本の油絵」を模索した《舞妓》や《湖畔》、日清戦争に従軍したときのスケッチ、桜島の噴火図、日本に根づかせようと苦戦した裸体画や構想画、そして晩年の寂しげな風景画まで約200件が展示されている。まあこれだけなら過去にもあったかもしれないが、今回はこれに加え、パリ時代の黒田の師ラファエル・コランほか、カバネル、ミレー、シャヴァンヌ、モネ、浅井忠、久米桂一郎、青木繁ら同時代の画家たちの作品約40件もあって、黒田がパリでなにを学び、日本でなにをやろうとしたのか、なにが実現できて、なにができなかったのかがわかるような構成になっている。年代で見ると、パリ時代末期から帰国後7、8年の約10年間(ほぼ1890年代)がもっとも多産で問題作を連発していた時代で、20世紀以降になると多忙のせいもあってか、要人の肖像画や花の絵や風景画の小品が多くなり、構想画や裸体画などの大作は激減していく。年齢でいえば30代前半までに代表作は出し尽くしているのだ。じゃあ残りの4半世紀近く(58歳で没)はカスのような人生だったかというとまったく逆で、サラリーマンでいえば現場から離れて管理職・取締役に就いたってわけ。画家としてはどうかと思うけど、薩摩藩士の子としてはまっとうな後半生だったかも。作品はほぼ時代順に並んでいるが、そのまま並べると尻すぼみになってしまうので、最後は順序を変えて「そうきたか!」という展開。これを見れば、主催者がこの展覧会でなにを伝えたかったのか、日本近代美術史のなかで黒田をどのように位置づけようとしているのかがなんとなくわかって、うなずける。

2016/03/22(火)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00034280.json s 10122312

津川奈菜「境界にあるものたち」

会期:2016/03/19~2016/04/03

ギャラリーサイトウファインアーツ[東京都]

木枠に留めないキャンバス布にざっくり描いている。案内状では数十枚を壁一面に貼ってインスタレーションっぽく展示しているが、実際には木枠に張らないまま3、4点だけ額装して飾ってるため、いかにも商品然としている。売るならいいかもしれないが、見せるだけならそのまま壁に何十枚も並べたほうが説得力がある。

2016/03/21(月)(村田真)

黄金町レビュー

会期:2016/03/11~2016/03/21

高架下スタジオ・サイトAギャラリー+八番館+ハツネウィングなど[東京都]

昨年4月から黄金町のレジデンス・プログラムに参加していた14組のアーティストによる成果発表。毎年行なわれる「黄金町バザール」とは違って、ゲストキュレーターもいなければテーマもない。だから小さな展覧会が小さな会場(元“ちょんの間”)でパラパラと開かれてるだけで、なんかパッとしないなあ。客もほとんどいないので寂しいぞ。片岡純也+岩竹理恵による循環型のインスタレーションや、楊珪宋による内臓をモチーフにした陶器はおもしろいんだけどね。

2016/03/21(月)(村田真)

田中信行 イメージの皮膚

会期:2016/03/12~2016/03/30

上野の森美術館ギャラリー[東京都]

表面が波打った乾漆の大作が3点。2点は壁掛けで、1点は床置き。これらは絵画だろうか彫刻だろうか。壁掛けが絵画で、床置きが彫刻という分け方もできるけど、どれも麻布の表面に漆を塗ったものだからタブローの変種ともいえるし、絵画を中心とした「VOCA展」と同時開催だし、「イメージの皮膚」というタイトルから推測するに量塊(マッス)より表面を問題にしているようだし、床置きも含めて絵画として見るべきか。でもやっぱり工芸だよね。

2016/03/17(木)(村田真)