artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

久保ガエタン「記憶の遠近法」

会期:2016/01/23~2016/03/13

たこテラス[東京都]

かつて千住地域のシンボル的存在だった「お化け煙突」。1964年に取り壊された千住火力発電所の4本の煙突が、見る角度によって3本になったり2本になったり1本にもなるのかな? とにかく本数が変わって見えるのでそう呼ばれていた。このお化け煙突のことを知り、そこから物語を紡ぎ出して作品化したのが久保ガエタン。会場のたこテラスを訪れると、横のドアの鍵を開けてくれる。入ると、路地のような中庭のような内部なのか外部なのかわからない通路に沿って、これも部屋のような物置のようなよくわからない空間がいくつか並び、そのなかに解体されたお化け煙突の素材を含む陶による300分の1の煙突模型や、東電から借りた火力発電所の模型、作者の曾祖父が持っていた戦艦の模型、お化け煙突の青焼き図面、ボルドー近郊に住むガエタンの祖父のルーペ、デュシャンを思わせる自転車の車輪、火力発電所で働いていた人のインタビュー映像などが展示されている。お化け煙突に触発されたのはわかるけど、時空が飛んで煙突に直接関係ない資料が示されたりしているのでつかみどころがない。そもそもたこテラスという妙な場所を会場にし、チラシに向かいの公園にあるタコ型の遊具のイメージをあしらっているので、てっきりタコ関連の展覧会かと思ったくらいだ。どうせならタコとお化け煙突を合体させてほしかった。

2016/02/29(月)(村田真)

大巻伸嗣「くろい家」

会期:2016/01/30~2016/03/13

くろい家[東京都]

北千住の駅から10分ほど、狭い路地を入ると見えてきた黒塗りの3階建ての家が目的の地。受付でまず2階に通され、真っ暗な部屋に導かれる。そこは手すりのついた桟敷席になっていて、正面奥の天井から薄光が射し、ときおり白煙とともに大きなシャボン玉が噴き出してくるのが見える。白いシャボン玉はゆっくり降下して1階に消えていく。再び受付に戻ると今度は1階奥の部屋に案内される。そこはいま2階で見てきた白煙やシャボン玉が床に落ちるまでを見られるという趣向。これは昨年の越後妻有での廃屋を使った《影向の家》と基本的に同じ構造だが、越後妻有では廃屋を使った似たような雰囲気の作品が多くて目立たなかったのに対し、こちらのほうは下町情緒の漂う場所込みで印象深かった。でも最近、シャボン玉職人っぽくなってないか?

2016/02/29(月)(村田真)

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第39回東京五美術大学連合卒業・修了制作展

会期:2016/02/18~2016/02/28

国立新美術館[東京都]

見た順に書くと、まず東京造形大学。なぜかここはいつも迷路のような会場構成になってるうえ、絵画、彫刻という形式から外れる作品も多いので一見にぎやかだが、男女がチューする4点セットの巨大絵画を出した谷崎桃子以外は大したことない。日本大学芸術学部は例年どおり見るべき作品はなく、もっとも人数の多い多摩美術大学もいつになく佳作が少ない。そんななかでも、迷路とスプレーペインティングによるこれも大作4点セットの安部悠介が際立っていた。個人的にはアラビア半島の地図とアラブ人、戦車、戦闘機を看板絵のように描いたジャマル・イビティハルが場違いで好感を持ったが。女子美術大学は凡作の山だが、身近な人たちのスナップ写真を12点の油彩にした大武唯は、並べ方に難があるにしても発想は評価したい。武蔵野美術大学はカスも多いが、秀作も多い。プリント柄や刺繍の布を貼り合わせて表装に仕立てた池上怜子は、日本絵画のパレルゴンを抽象画として見せているし、井上真友子の《歩道橋》は「FACE2016」の《嵐の前》ほどではないけど勢いを感じさせる。彫刻では小さなトルソを14点ほど並べた堀田光彦に注目したい。

2016/02/25(木)(村田真)

FACE 2016 損保ジャパン日本興亜美術賞展

会期:2016/02/20~2016/03/27

損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]

公募コンクールの4回目。近年VOCAとかシェルとか企業主催の絵画コンクールが乱立してるけど、いずれもかつてのような日本画・洋画・版画とか具象・抽象といったジャンル分けをせず、絵画表現ならなんでもあり、ときに写真やCGもOKで、しかも審査員がダブることもあるため(本江邦夫氏なんかすべてに絡んでいる)、結果的にどこも同じ作家、似たような傾向の作品が入選・受賞し、どの展覧会もドングリの背比べになってしまう。これではいくらコンクールが増えても、いや増えれば増えるほど同調圧力が働いて表現の多様性が失われてしまいかねない。恐ろしいことだ。といっておこう。さて、審査員や損保ジャパンの学芸課長によれば今年はレベルが低かったようだが、去年初めて見たぼくには今年の入選作のほうが粒よりだった気がする。まず、受賞作品が並ぶ最初の部屋。グランプリは遠藤美香で、モノクロームの木版画が受賞するのは珍しい。画面を草花(水仙)で埋め尽くし、中央やや上にお尻を押さえた後ろ姿の女性を配した図柄。野グソかと思ったが、まさかね。驚くのは画面全体を覆う水仙の葉や花を1枚1枚ていねいに描き尽くしていること。さっきも書いたけど、こういうのを見るとうれしくなる。よくぞグランプリに選んだものだ。受賞者ではあと、小さな円を鎖のように縦につないでレース編みのように描いた松田麗香にも注目したい。画材が日本画のせいかやや工芸的で脆弱な印象はあるけれど、なにか次元の異なる絵画に発展する可能性もあるような気がする。入選者では、抽象化した植物パターンで画面を埋めた浜口麻里奈、横たえた画集を真上から描いた大河原基ら、気になる作家が何人かいたけれど、ひとりだけ挙げるなら、1本の電信柱を濁った色彩と大胆な筆触で描いた井上真友子だ。一見ありがちな絵画だが、この不穏な空気はだれにも真似できないし、だれも真似しようとは思わないだろう。今月ふたりめの村田真賞だ。

2016/02/19(金)(村田真)

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遠藤美香 展

会期:2016/02/15~2016/02/20

ギャラリーなつか[東京都]

このあと見に行く「FACE 2016」展でグランプリを獲った遠藤美香の個展。最初に彼女の作品を見たのはいつ、どこでだったか忘れたけれど、たしか室内風景を描いた版画で、畳の目の一つひとつまで彫り込んでるのを見てうれしくなったものだ。いるんだよ森を描くのに木の葉の1枚1枚まで描こうとしたり、群衆を描くのに一人ひとりの髪の毛の1本1本まで描き倒そうとする人。越後妻有の廃屋の全面に彫刻刀を入れた《脱皮する家》も同じビョーキかもしれない。今回の展示では、寝そべって新聞を読んでる人を描いた絵の新聞紙の文字の処理の仕方に感心した。さすがに何万字もの文字を一つひとつ再現しないし、かといってただ線で表わすような横着もしない。なんとなく文字のように見えるけど文字じゃないという、そのギリギリの選択がアッパレ。

2016/02/19(金)(村田真)